週刊誌の過去記事を「セクハラ」で検索すると、流行語大賞となった1989年から徐々に増え、1990年代になると「女性社員とどうやってコミュニケーション取ればいいんだ?」と、オジさんたちが戸惑う特集記事が何本もありました。とどのつまり30年前と一緒。

30年前には見過ごされたことが見過ごされなくなり、職場でセクハラ発言する人は激減しましたが、オジさんたちのコミュニケーション能力は止まったまま。ここにこそ「酒場でのセクハラ問題」の本質が存在するのです。

コミュニケーションとセクハラの関係

コミュニケーションとセクハラの関係を明らかにした、調査を紹介しましょう(労働政策研究・研修機構「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査結果」2016年)。

セクハラの態様のトップ3は、

1)容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた
2)不必要に身体を触られた
3)性的な話や質問をされた(性生活を聞かれた、卑猥な冗談を聞かされた)

で、これらのセクハラの経験率と職場環境との関連を調べたところ、セクハラ経験者が多い職場トップ3(多かった順)は、

1)職場の特定の人や係に仕事量が集中している
2)職場の特定の人しかできない業務が多い
3)恒常的に残業や休日出勤が多い

セクハラ経験者が少ない職場トップ3(少なかった順)は、

1)職場にはお互いを助け合おうという風土がある
2)職場は意見が言いやすく風通しがいい
3)職場のリーダーは社員間の業務分担等を良くマネジメントしている

ご覧のとおり、常日頃からコミュニケーションが取れている職場では、セクハラが少ないことがわかりました。一方、互いにサポートする環境が希薄な“孤立した職場”では、セクハラが頻発していました。こういった職場はコミュニケーション不全に陥っていると考えられます。

日常的にコミュニケーションが成立している職場では、セクハラになりそうなきわどい話をしなくとも、共通の話題が存在します。そして、そういった職場では男女差別がなく、互いに敬意を示し、一人ひとりが能力を発揮する土壌ができあがっているのです。

河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輪に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
「ロリコン扱い」男性保育士が直面した壁
「下着は白」セクハラ校則指導の理不尽さ
モテなかった人ほどストーカー化するワケ
早大セクハラ"教員32人が共同声明"の意味
"女は面倒"と考える男性管理職は頭が悪い