宴席でのふるまいで、信頼度を見られている
外国人を相手の商談は増える一方。「まず名前を名乗って握手し、それから名刺を渡す」「会議中に腕組みしない」といった欧米流のビジネスマナーも、かなり知られるようになってきた。
一方で、インバウンドを含め経済関係の拡大が著しい中華圏やイスラム圏には、日本や欧米とはまた異なるマナー感覚がある。
「中国文化圏のビジネスの基本は、所属や肩書より個人同士の関係です」と言うのは、日本企業の中国進出を支援するアジアネット代表の吉村章氏だ。
「初対面の相手から『まずは食事でも』と誘われるのは、決して社交辞令などではありません。あなたが信頼できる相手かどうかを、急接近して観察しようとしているのです」
したがって、宴席でのふるまいはとても重要だ。マナーとされるもののほとんどは「相手との個人的関係を築くため」と考えれば理解できる。たとえば、宴席でひとり手酌で酒を飲むのは失礼な行為。必ず誰かを誘って一緒に杯を交わす。テーブルを囲む全員と杯を交わすのが正しいマナーだ。
一方で、前後不覚になるほど酔ってはならない。お酒に自信がない人は、最初から最後までソフトドリンクで通せばいい。「最初にビールを一杯だけという、日本でよくある飲み方は好ましくありません」(吉村氏)。
割り勘は「あなたとの間に貸し借りをつくりたくない」、つまり関係の構築を拒否する意思表示と受け止められる。都市部や若い世代では割り勘とする例も出てきたが、一般的には避ける。
うっかり言ってしまいそうなのが、「昨日はごちそうになりました」という言葉。またあの店でおごってくださいと催促する意味に取られかねないので、お礼は当日その場のみで。
合弁先など職場でのコミュニケーションでも、日本の常識に従った言動が誤解を生むケースが少なくない。たとえば、仕事が終わらず残業している中国人の同僚に、「よかったら手伝おうか」と声をかける必要はない。「仕事はチームでやるもの」という日本流に対し、中国では「上司から指示された仕事を個人の権限と責任において行い、その成果への評価が報酬につながる」という考え方が一般的。頼まれもしないのに手を出すのは、他人の仕事を横取りすることに等しい。
「明確さや具体性を欠く指示はだめ。『以心伝心』や『空気を読む』コミュニケーションも期待しない。人前で叱ることもNG行為です」(吉村氏)