持ち物をほめると、イスラムの人は当惑

ハラール関連ビジネスなどが注目されている、イスラム圏のビジネスマナーはどうか。「イスラムの世界では『客人は歓迎するもの』という考え方が基本。あまり細かい作法を外国人に強要することはありません」と言うのは、イスラム圏の文化や政治経済に詳しい、アナリストの佐々木良昭氏だ。

とはいえ中国と同様、こちらが信頼するに足る人間かどうかは、しっかり見られている。たとえば、車の運転手や使用人に尊大な態度を取る人は、人格を疑われる。神の前では万人が平等というのが、イスラムの教えだからだ。

第三者のいる場所で、相手のプライドを傷つけるようなからかいを口にするのは、どんなに親しくなった間柄でも厳禁。男同士でも相手の尻を叩いたり、中指を立てる仕草をしたりといった、性的なジョークも避ける。

意外な落とし穴が、「相手の持ち物をほめてはいけない」ということ。「『あなたのペン、素敵ですね』とほめることは、相手にそれをくれと言うことと同じ。その場合相手は、災いを避けるため、あなたにその持ち物を渡さなくてはならなくなります」(佐々木氏)。水や財産をめぐり、ときには他の部族と戦いながら生き残ってきた、砂漠の人々の歴史のなごりだ。

相手の夫人や娘を「美人ですね」とほめるのも禁物。家に招かれても女性とは握手をせず、目礼程度にとどめる。

イスラム教徒の間でも、食事や酒についての戒律をどこまで忠実に守るかは個人差がある。旅先ではそこまで厳格でなくていいと考える人、なかには酒をたしなむ人もいる。とはいえ、「お酒は飲まれますか」などと尋ねていいのは、一対一のときだけ。第三者がいる前で聞くのはマナー違反だ。

どちらの文化園も、国や都市、社会的セグメントや人によってマナーへの寛容度は異なる。「『◯◯人はこう』とパターン化せず、目の前の相手をよく見ることが大切です」と吉村氏。

「昔の日本人なら当たり前にしていた礼儀作法で、心は通じます」と言うのは佐々木氏。「年長者を敬い、相手を紳士として扱い、おごってもらったら最低でも1度はおごり返す。それだけでも、『イスラムの心がわかっている』と思ってもらえますよ」。