希少性で価格支配力を強める日本の技術

このように、オンリーワン戦略によって価格競争に巻き込まれることなく、独自の成長ビジネスモデルを展開している日本企業、なかでもハイテク業界においては、これから数十年ぶりに、極めて高い成長率をともないながら、投資対象の首位に座る時期が到来しそうです。なぜなら世界的に、IoT関連投資が活発になるからです。

インターネットを介して、あらゆるものがつながる、IoT時代に向けたインフラストラクチャー構築が、いよいよ本格化してきます。加えて中国が、すさまじいまでの勢いで、ハイテク投資に邁進しています。中国は巨額の投資を継続的に行うことで、経済成長が維持されている国ですが、言い換えれば、投資を止めた時点で経済成長が止まり、ただちに景気後退に陥る恐れがあります。

その中国が、ハイテクに照準を絞って巨額な投資を始めていることの意味を、私たちはよく考える必要があります。このことは世界的にハイテク業界への資金流入が、今後もしばらく続くことを意味しています。それは、「ハイテクブーム」というにふさわしいほどの、大きな流れになるでしょう。そのハイテクブームにおいて、日本は極めて有利なポジションに立っています。

前述したように、日本のハイテク産業は、新たなイノベーションに必要な周辺技術、基盤技術のほぼすべてを兼ね備えているからです。ハイテク産界において、日本のライバルともいうべき中国、韓国、台湾、ドイツは、ハイテクそのものに投資してはいるものの、その周辺や基盤は技術・商品の多くを日本に依存しています。つまり、日本のエレクトロニクス企業群は、このイノベーションブームの到来に際して、最も適切なソリューションを世界の顧客に提案・提供できるという、唯一無二の強みを持っているのです。

ディスカウント合戦の中で強みを発揮

さらにいえば、半導体製造のように大量の資金が投入される中枢分野は、極めて激しい競争にさらされ続けます。現在、中国がハイテクセクターに多額の投資を行っているのは、この中枢分野における業界標準とシェアを取りに行こうとしているからです。ただし、多額の投資をしたからといって、必ず勝者になれるとは限りません。敗者になってしまったら、莫大な投資は無駄になります。実に苛烈な競争なのです。特に中国はこの中枢分野における支配力を強めようとして、国家資本を国有企業を通して半導体と液晶に大量に投下しており、価格競争の主役になり始めています。

あちらこちらでディスカウント合戦が繰り広げられ、最後の最後には、どこにも勝者がいなくなるという悲惨な状況になることも、十分に考えられます。こうなったときに、ますます強みを発揮するのが、日本なのです。前述したように、ハイテクの中枢分野において、日本はすでに負け組となり、多くのハイテク企業は、もはやこの分野に収益を依存していません。日本が今、強い競争力を維持しているのは、希少性が高く、価格支配力が維持できる、オンリーワンの分野なのです。

武者陵司(むしゃ・りょうじ)
武者リサーチ代表
1949年長野県生まれ。1973年横浜国立大学経済学部卒業、大和証券入社。企業調査アナリスト、大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長などを経て97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長、09年武者リサーチ設立。
(写真=iStock.com)
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