なぜいま日本企業は絶好調なのか

ところが、不思議なことに日本の企業は元気いっぱいです。2018年3月期決算は、純利益ベースで前期比27パーセント増の27兆9615億円となり、2年連続で過去最高を記録しました。日経平均株価は、平成という時代を通じてほとんど上昇せず、名目GDPもほぼ横ばいだったのに、なぜか企業は元気なのです。その理由は、「失われた20年」の間に、多くの日本企業が、ビジネスモデルの大きな転換を図ったからです。

『史上最大の「メガ景気」がやってくる 日本の将来を楽観視すべき五つの理由』(武者 陵司著・KADOKAWA刊)

その根拠として、日本の企業収益が劇的に上昇していることを挙げておきましょう。企業の営業利益を対GDP比で見ると、11.9パーセントという過去最高の水準に達しています。また、日銀短観による製造業大企業の経常利益率は、2017年度は8.11パーセントと予想されていますが、それはバブル景気のピークだった1989年度の5.75パーセント、リーマン・ショック直前の景気がピークだった2006年度の6.76パーセントをも大きく上回っています。

ここで、このような疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。日本の名目GDPはここ二十数年、ほぼ500兆円で横ばいであったにもかかわらず、なぜ企業収益だけが顕著な増加を見せているのか、と。

それは、多くの日本企業がナンバーワンではなく、オンリーワンを目指すようになったからです。これこそが、日本企業のビジネスモデルの大転換といってもいいでしょう。かつての日本企業は、とにもかくにもナンバーワン志向でした。1980年代までの日本は、導入技術と価格競争力により、世界の製造業主要分野においてナンバーワンの地位を獲得しました。銀行の総資産世界ランキングでも、日本の都市銀行がずらりと上位を独占していたことを覚えています。まさに、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代でした。しかし、このビジネスモデルは、米国による日本叩き、超円高、韓国などアジア諸国企業による模倣と追撃により、完全に通用しなくなりました。

かつて日本が支配した液晶、パソコン、半導体、テレビというデジタルの中枢分野において、今や日本企業のプレゼンスは皆無といっても過言ではないでしょう。ましてやスマートフォンになると、日本製品の世界シェアは惨憺たんたる有様です。個人がメインユーザーとなるデジタル製品の分野において、日本は完全に世界の後塵を拝しているとしか、いいようがない状況です。にもかかわらず、前述したように、日本企業の業績は過去最高といってもいいくらいに堅調です。この現実を見て、「???」という人も多いでしょう。

日本企業はいったい何で稼いでいるのか

では、日本企業はいったい何で稼いでいるのでしょうか。日本企業が稼いでいるのは、「周辺と基盤の分野」です。たとえばデジタル機器が機能するためには、半導体などの中枢分野だけではなく、半導体が処理する情報の入力部分をつかさどるセンサーや、そこで下された結論をアクションにつなげる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェース、すなわち周辺分野が必要になります。この周辺分野の製品製造に、日本企業は強みを持っているのです。