「失われた20年」という言葉にいいイメージを抱く人はいないだろう。しかし、経済アナリストの武者陵司氏は、「失われた20年の間に、日本企業はビジネスモデルを大転換させた。ナンバーワンからオンリーワンに戦略を変えたハイテク企業に引っ張られ、これから日本には『メガ景気』がやってくるだろう」と予測する。その根拠とは――。

※本稿は、武者陵司『史上最大の「メガ景気」がやってくる』(KADOKAWA)を再編集したものです。

ナンバーワンを目指して挫折した日本が、オンリーワンで復活する(写真=iStock.com/IgorSPb)

ナンバーワン志向だから日本経済は転落した

もう随分と前の話になりますが、民主党が政権をとったとき、行政刷新会議の事業仕分けにおいて、「二位じゃだめなんですか?」という質問を投げかけた議員がいました。エズラ・ヴォーゲル氏の著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』ではありませんが、かつての日本はとにかく世界ナンバーワンを目指して、さまざまな技術開発を行ってきました。くだんの事業仕分けのやりとりは、スーパーコンピュータの研究分野において、日本がナンバーワンをとる意味があるのかどうかということだったのですが、ナンバーワンにせよ、ナンバーツーにせよ、私に言わせれば、どちらも意味がありません。

確かに、ナンバーワンになることは、グローバルな競争分野においては大事なことかもしれません。しかし、実は、途方もない努力をしてナンバーワンの座を射止めたとしても、技術が日進月歩の世界においては、すぐに逆転されてしまうケースがいくらでもあります。それはハードの性能においても、あるいは製品のシェアにおいても同じことです。ナンバーワンを維持するのは、非常に大変なことなのです。

日本経済はかつて、主要製造業で米国を凌駕し、あわや世界一の経済大国になる寸前まで行ったことがあります。家電や自動車を筆頭に、日本が米国の主要産業をどんどんキャッチアップしたため、それらは軒並み衰退の一途をたどりました。それまでは米国企業が世界的に圧倒的なシェアを持っていた分野を、軒並み日本企業が奪っていったのです。

しかし、日本企業の栄華も長くは続きませんでした。バブル崩壊後の「失われた20年」で、かつて米国製造業がたどった衰退への道を、日本経済もたどる恐れが出てきたのです。
実際、1990年代に入ってからは、アジアNIES(韓国,台湾,シンガポール,ホンコン)や中国の急速な技術面のキャッチアップに加え、大幅な労働コストの格差、他国の最新鋭設備の稼働により生産性上昇スピードで格差をつけられたことなど、どこを見ても日本企業にとって不利な条件ばかりが揃っていました。

そして、平成の間に、伸び悩んだ日本のGDP(国内総生産)は中国の後塵を拝すこととなり、世界第2位から第3位へと後退してしまいました。今後も経済規模ではインドなど、中国に次ぐ新興国が台頭してくる可能性があり、日本のGDPが世界第3位にとどまっていられるのも、いつまでのことなのかと、心許なくなります。