米朝首脳会談、歴史的な外交ショーのウラ側
トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による歴史的な米朝首脳会談は、イスを蹴上げて物別れに終わることなく、和やかムードで包括的な合意文書の署名、共同声明にこぎつけた。
金委員長が宿泊した高級ホテル、セントレジスの宿泊代はどうやらホスト国のシンガポールが持ったようで、シンガポール政府は米朝首脳会談の開催費約13億円を負担したと発表した。
全世界が注目する米朝首脳会談の開催地を買って出たシンガポールとしては、一応国際的な評価を得られたし、自国の観光をアピールする機会になったかもしれない(国内では無駄遣いという批判もある)。
では、会談の当事者たちの損得勘定はどうか。米朝首脳会談は成功だったのか、失敗だったのか。まず合意文書の内容を確認しておこう。
ポイントは4つ。
(1)平和と繁栄を求める米朝両国民の希求に基づき、新たな米朝関係の構築に取り組む。
(2)朝鮮半島に恒久的で安定的な平和体制を構築するためにともに努力する。
(3)北朝鮮は2018年4月27日の板門店宣言(文在寅韓国大統領と金委員長の南北首脳会談で両首脳が署名。朝鮮半島の完全な非核化、朝鮮戦争の終結などの目標が盛り込まれた)を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む。
(4)米朝は戦争捕虜や行方不明兵の遺骨回収と、すでに身元が判明している分の即時引き渡しに尽力する。
今回の首脳会談で注目されたのは北朝鮮の非核化と体制保証という「ディール」の行方である。共同声明には「トランプ大統領が『securityguarantees(安全の保証)』を与えることを約束し、金委員長は『朝鮮半島の完全な非核化』に対する揺るぎない意志を再確認した」との文言が入った。合意文書にも「朝鮮半島の完全な非核化」との一文があるが、具体的なスケジュールや非核化の方法やその確認体制については盛り込まれていない。アメリカが一貫して求めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」というフレーズもなし。そもそも「朝鮮半島の完全な非核化」という言い回しは北朝鮮が持ち出したものだ。合意文書の「朝鮮半島の完全な非核化」に(核を保有する)在韓米軍の撤退が含まれるのかどうかも曖昧だ。
「security guarantees」については、合意文書では一切触れられていない。北朝鮮が完全な非核化に応じれば、アメリカは「安全の保証」を与えるというわけだが、それが金王朝による独裁体制の保証を意味するかどうかは定かではない。単にアメリカが軍事的行動に打って出ないことを意味しているだけかもしれない。
トランプ大統領は会談後の記者会見で「今日署名した文書は多くの事柄が含まれている。署名後に合意された事柄で文書に含まれていない部分もある。これらは時間が足りなかったので文書に入れることができなかった」と語っている。
もしかしたら非核化プロセスに関する何らかの合意があったかもしれないし、裏では「体制保証」をしたかもしれない。「体制保証」というと金委員長がトランプ大統領に泣きついて懇願するイメージがつきまとう。そんな文言を表の合意文書に入れるはずがない。「体制保証」など北朝鮮の国民は誰一人求めていないのだから。
トランプ大統領の言を借りれば、今回の首脳会談は「骨の折れるプロセス」の始まりにすぎない。「非核化」と「安全の保証」の長きにわたる綱引きはこれから始まるのだ。