3.11 人事部が下した「判断」は正しかったか

3月11日金曜日、午後2時46分。東京湾に面した品川駅に近い15階建てビルにあるIT企業A社の人事部フロアが突然、グラッと傾いた。揺れはさらに大きくなり、窓や戸棚を激しく揺らし始めた。人事部長は椅子から立ち上がるや「窓から離れろ!」と叫んだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/maconline99)

A社の人事部長はその後の動きについてこう語る。

「鉄道はすぐに止まると思いました。3時頃、会社の危機対策本部の主管である総務部に連絡し、徒歩圏内の社員は帰したい、そういう通達を出してくれと依頼しました。その後、総務部から徒歩圏内の社員は定時前に帰宅してよい、勤務扱いとなるという通達がすぐに出されました」

一方、営業部などは多くの社員が社外にいた。総務部は「安否確認システム」で安否確認を行った。一斉送信のメールに対し、社員はボタン操作で対応するだけで、自分の状況を伝えることができる。

これは十分に機能したが、新たな問題も判明した。個人情報保護を理由に、社員の携帯電話番号を収集していなかったのである。

▼「会社に泊まるように徹底すべきだったと反省しています」

A社の人事部長は帰宅する前に緊急連絡先として派遣社員を含めた全員に携帯番号を提出させた。

「土・日に何が起こるかわかりません。非常事態ですから個人情報もへったくれもないということで、半ば強制的に提出させました。後日、計画停電もあり、危機対策本部で使用目的を限定する内規を作成し、携帯番号の開示を求めることを決めました。それでもグループ会社の中には必要ないという声もあるなど、個人情報のカベを痛感しました」

午後4時頃になると鉄道各社が運行停止を次々に発表し、首都圏の交通網が遮断された。人事部長は、このままでは帰宅困難者も発生することから「徒歩圏内の社員は帰宅してもいいが、遠距離の社員は帰宅せずに会社に泊まるように」という通知を社内に出した。

しかし、この指示が全部守られたわけではなかった。

「パソコンで自宅まで徒歩で帰るのにどのくらいの時間がかかるかを調べ、10km圏内の社員はすぐに帰宅しました。しかし、午後6時ぐらいになり、残った社員の中には、歩いて帰れるならば帰ろうという社員も出始めました。所属長も帰るなとは強く言えません。結果的に7時間かけて、自宅のある埼玉県大宮市まで徒歩で帰った社員もいました。幸い途中で事故を起こした社員はいませんでしたが、自宅との距離、交通機関の運行状況や道路の混雑状況を把握し、会社に泊まるように徹底すべきだったと反省しています」(A社人事部長)

同社はその後、帰宅困難者は会社に宿泊するマニュアルを整備したという。