孫正義でさえ起業は得意ではない
起業家・事業家という観点では、稀代の経営者で、日本一の富豪としても知られるソフトバンクの孫正義さんも気になるところです。孫さんは、いったいどのような人だといえるでしょうか。起業家としても優れているのでしょうか。
じつは今、ソフトバンクが主力としている事業で、孫さんが自分でゼロから起こしたものはごく限られます。彼は、若いころは自動翻訳機を発明したり、コンピュータの卸売事業などを立ち上げましたが、あるころから、ベンチャー企業に出資したり、買収したりするなど既存のビジネスに投資する方向にシフトし、事業を経営して成長させることで巨万の富を得てきたのです。
孫さんは堀江さんとは少しスタンスが違います。スタートアップの会社を買収するか、ジョイントベンチャーでお金を出し合いながら事業を作り、1-10ないしは10-100にしていく経営が大得意だといえます。純粋な起業家ではなく、純粋な投資家でもない。投資と事業の両方に長けているのが、孫さんの成功の秘密です。
そんな孫さんの投資スタイルは、目をつけた業界の会社をごっそりと買うというものです。
伝説的に語り継がれているのは、1990年代、「これからはインターネットの時代だ」と考えた孫さんが、アメリカのコンピュータの展示会そのものを買収し、またコンピュータ雑誌の出版社を買収したことでしょう。当時は誰もその価値を正確に認識していませんでしたが、今風にいえば、まず情報のプラットフォームをごっそり買って、そこからヤフーをはじめとした有望なベンチャーを見つけ、投資していったと捉えることができます。孫さんはあの当時から、こうした事業スタイルを実現していたのです。
孫さんは、なにより「時代のキーワードを読む」ことに長けています。今の言葉でいえば、「バズワード」と言ってもいいかもしれません。当時は「インターネット」、今なら「フィンテック(FinTech)」「IoT(InternetofThings)」「AI(人工知能)」などでしょう。
まったく誰も予想していない未来を読むわけではありませんし、超シードテクノロジー(シードとは「種」を意味し、シードテクノロジーとは、ビジネスになるかどうかがわからないが、将来に大きなビジネスを生む可能性のある技術のこと)を発掘するわけでもありません。「これから確実に来るであろう」と考えられる、時代のキーワードに当てはまる領域を選んで広く投資をするのです。10年単位で動く経済や社会の大きな動き、すなわちマクロ経済を見ているといえるでしょう。
マクロで成長する業界に投資をすれば、仮に10社のうち半分がなくなっても、数社が何十倍何百倍に成長することで、大きな利益をもたらしてくれます。そう考えると、孫さんは起業家ではなく、究極のベンチャーキャピタリストに近い存在なのです。