ビジネスと位置づけた方がグレードアップできる

第2条 趣味の範囲にとどめない

退職後は、趣味の範囲にとどめないで、わずかでもお金をもらえることを考えることだ。例えば、老人ホームで得意の楽器を演奏して入居者に喜んでもらうことは素晴らしい。その時に交通費や寸志であってもペイがあるということは、その瞬間に単なる趣味ではなくて社会的なつながりを持った活動になる。またお金を意識することが自分の力量アップにつながる。

私が執筆に取り組み始めたころ、「たとえお金が稼げなくても、いい文章を書いていきたい」と話すと、信頼している先輩は「それではだめだ。明確にビジネスと位置づけた方が自分をグレードアップできる」と忠告してくれた。自分と社会とのつながりの指標として、お金の価値をうまく使うのだ。

第3条 身銭を切る
楠木 新(著)『定年準備-人生後半戦の助走と実践』(中公新書)

会社員は会社のお金、すなわち他人のお金で過ごしている現実がある。営業で取引先に製品を売り込むときにも、新たな商品を企画する際にも、会社のお金を軸として考えている。得意先に接待をする時も、出張の経費も同様である。

また毎月の給与はほぼ定額で、税金や社会保険などの手続きも会社の世話になっている。そのため知らず知らずの間に会社の枠組みのなかにとらわれた発想になりがちである。

ある編集者は、後輩に「書籍代は会社の経費でも落とせるが、自腹で買ったほうがいいよ」と勧めている。自分のお金で買わないと顧客の気持ちになれないからだ。評論家の渡部昇一氏は、その著書の中で「凡人の場合、身銭を切るということが、判断力を確実に向上させるよい方法になる」と述べている。

身銭を切ることが、会社の枠組みから離れて主体性を持つ第一歩だということをまずは意識するべきだ。

第4条 個人事業主と接触する

会社員とフリーランスを並行して10年やってきた私の立場から見ると、会社員は社外に目が向かず、社会とのつながりについての感度が甘い。デザイン関係の会社から独立した女性社員は、「フリーランスになって初めて上司と同僚しか見ていなかったことに気づいた」と語っていた。

個人事業主に接触すると、会社員の自分を客観化することができる。彼らは、社会的な要請に直接相対している先達だからである。小売り店主、大工、コンサルタント、理容師、税理士、プロスポーツ選手、芸人などなど多くの仕事がある。

個人事業主の働き方を自分と重ね合わせてみると、会社員としての自分の立場がよくわかる。例えば、私が芸人さんの取材をすると、自分がいかに発信する姿勢が弱いかを反省させられる。会社員同士での異業種交流会で名刺交換するのもよいが、やはり個人事業主とも付き合うべきだ。出会う場としては、仕事以外にも同窓会や、地域活動、PTA活動などがある。