人生100年時代の充実した第二の人生とは
最近、企業や労働組合からシニア社員に対して講演や研修を依頼されることがある。そこで感じるのは、50歳を過ぎた時点で定年後のことを具体的に描いている人は極めて少ないということだ。1割もいないだろう。
しかし、定年後に対して何も興味がないかと言えばそんなことはない。むしろ逆で話し合いの節々で漠然とした不安や強い関心を感じることが多い。特に先輩の具体的な事例を紹介すると、より真剣なまなざしになる。
この5月に発刊した『定年準備――人生後半戦の助走と実践』(中公新書)では、取材した具体的な実例や個人的体験を多く紹介しながら、行動に結び付くヒントの提供を目指した。働きながら「もう一人の自分」を発見することや、60歳からの働き方・地域活動やボランティアの実例、子どもの頃の自分を呼び戻す大切さ、魅力ある先輩を参考にする方策などを紹介している。そしてエピローグとして、「定年準備の行動6カ条」をまとめた。
人生100年時代と言われるが、あまりにも寿命の伸びが急激なので社会システムや人の生き方、働き方がその変化に追いついていない。1万メートルのトラック競技だと思って走っていたら、途中でマラソンに変更されたみたいなものだ。しかし、こんなに長い人生の持ち時間を得たことは歴史上もかつてなかったことだ。自らの行動を通して充実した第二の人生を手中に収めるチャンスである。
第1条 焦らずに急ぐ
中年以降に会社員から転身した人は「一区切りつくまで3年」と発言する人が多い。
鉄鋼会社の社員からそば打ち職人に転じたAさんは、「自信のある蕎麦を出せるようになったのは開業して3年経ったころ」、専門商社の役員からメンタルヘルスの会社を起業したBさんは、「立ち上げた会社が落ち着くのに3年かかった」と語ってくれた。やはり1年や2年ではなく、また5年という話もきかない。なぜかワンクール3年、「石の上にも3年」なのだ。おそらく人の感覚という尺度においては、自分の立場を変えるのに、3年程度の時間が求められるのだろう。
定年後の切り替えにも一定の時間を要することは避けられない。また退職して独りぼっちになると行動すること自体がおっくうになる。現役の時から動き出すことだ。