ふらりと社内に「いい話はないか」

経理部長、北陸支店長を経て、2008年4月に執行役員・人事部長に就いたとき、今度は「リストラの前衛」に立つ。セメント販売量の減少は続き、リーマンショックが起きる。3本のセメント焼成窯の休止が決まり、400人超の希望退職を進め、約300人に関係会社へ転籍してもらう。従業員総数は、合併時の約4割になった。ただ、まだ前向きなことにまでは、手が回らない。

2012年4月に社長になっても、すぐには動けない。経営方針の第一に、事業体質の強化を掲げた。続いて260社もある子会社の集中と選択、財務体質の健全化を挙げ、経営の基盤固めを優先する。成長戦略はその後で、最後に地域社会への貢献も訴えた。この時点での、社員も納得し、安心する優先順位だ。

国内のセメント販売量は、ピークから半減した。「さらに半減するかもしれない」と、社内に覚悟を求めたが、東京五輪の開催が決まると、下げ止まる。再開発計画も増え、建設従事者の人件費や資材価格が上がり、工事を先送りするところも続く。一方で、従業員数も巡航速度と言える2300人体制に、なっていく。

そうした状況を踏まえ、2015年度から3年間の中期経営計画では、1000億円の成長投資枠を決める。そこから、米国ロサンゼルス近郊のセメント工場の買収費、530億円が出た。成長が続く環太平洋地域での事業展開を狙い、ベトナムで現地資本と組んで工場を建設、フィリピンでは買収し、中国にも合弁会社をつくる。

国内では、岩手県の大船渡工場内に約235億円をかけて、バイオマス発電所を建設中。出資比率は65%で、2019年秋に完成する。よく、社員たちに「工場は、いろいろな可能性を持っている。それを、使っているだろうか。100%使おうよ」と話す。セメントは1500度で焼成しており、廃熱や余熱を使い切れば、大船渡より大きな発電所もできる。これも「順理安行」のはずだ。

まもなく、新しい中期経営計画が、動き出す。環境が想像を超える速度と規模で変化するなか、次の3年で、手元にいくら資金が積み上がるか。負債の削減、株主への還元、そして成長投資に、バランスよく充てるが、成長投資を上積みし、海外でのM&Aも狙う。

社長時代、毎朝のように、社長室に近い監査役室に寄って10分ほど、雑談した。何か、知らない話題に触れたいからだ。空き時間があれば、社内の各部署にも、ふらり、といく。枕詞は「何か、いい話はないか」。これも福田流の1つ。4月に社長を譲って会長になるが、「順理安行」とともに、こちらの福田流も、続きそうだ。

太平洋セメント 社長 福田修二(ふくだ・しゅうじ)
1951年、山梨県生まれ。74年福島大学経済学部卒業後、小野田セメント入社。99年太平洋セメント経理部長、2006年北陸支店長、08年執行役員・人事部長、10年取締役常務執行役員、12年4月より現職。
(書き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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