世界各国の要人をはじめとして、多くの熱烈なファンを持つ帝国ホテル。戦後最年少の51歳で社長に就任した定保英弥氏は、一流のお客様たちに愛され続けるための努力を惜しみません。そのひとつは「ワイシャツは白、ネクタイは赤」というこだわり。なぜなのでしょうか。「プレジデント」(2018年6月4日号)の特集「1年365日『マナー』大全」より、記事の一部をお届けします――。

さすが帝国ホテルと、言っていただくために

私はホテルの営業畑を中心に歩んできましたが、20代のころから、5分でも10分でもお客様とフェース・トゥ・フェースでお会いする機会をつくり、少しでも知り合いになれるよう心掛けてきました。それも単に仕事をいただくことだけが目的ではなく、少しでも自分という人間を知ってもらうよう努めてきました。今はメールで用件を済ませることができますが、フェース・トゥ・フェースであれば、互いの共通点を見つけたり、意外な情報を得たりすることができます。

帝国ホテル社長 定保英弥氏

そのとき注意しなければならないのは、「聞く」と「話す」の比率です。私の場合は6対4くらい。ときには聞き役に徹することもあります。

そして、信頼関係を築いた後で大切にしなければならないことは、必ずフォローアップをすることです。仕事をいただいたら、感謝の気持ちをお伝えするために、先方を訪問して必ずフォローする。アクションを起こさなければ、関係性は継続できません。

職場も同様です。お互い忙しい場合は電話やメールで済ませても、大切な話は、やはり会って、顔を見て、目を見て話すようにしています。とくに経営者になると現場との距離がどうしても開いてしまいます。しかしだからこそ、自分でコミュニケーションをとりに行くことが大事になってくるわけです。自分から現場に行けば、少なくともスタッフの様子や雰囲気がわかります。私の仕事の大半はコミュニケーションをとることです。

ただ、最初から自分の意見や考えを伝えることはしません。やはりスタッフの話をまず聞いて、どんな状況で、どのような考えを持っているのか。そこをきちんと聞いてから、自分なりに解釈したうえで、最終的に自分の意見を言うようにしています。

他方、職場でお客様と接する際も、やはり一生懸命お話を聞くようにしています。どうすればお客様がハッピーになっていただけるのか。そのヒントを得るために、その方の家族構成や好きなもの、嫌いなもの、食べものの好みや趣味などをなるべく聞くようにしています。気分を害したお客様がいる場合も、なるべくお客様のところに通ってお時間をいただき、お詫びしながら、まず話を聞く。その時間を惜しんではならないのです。

我々は今、「さすが帝国ホテル推進活動」というサービス向上運動を進めています。これは外資系ホテルが進出し競争が激化する中で、我々の強みを見直すために始めました。

この活動には9つの実行テーマがあります。最初の3つが「挨拶」「清潔」「身だしなみ」です。これは社会人の基本で、元気よく挨拶して、常に清潔を心掛け、身だしなみに気をつけることです。次の3つが「感謝」「気配り」「謙虚」です。これはホテルスタッフにとって大事なことでしょう。そして最後の3つが、「知識」「創意」「挑戦」です。これは蓄積された知識を思う存分に活かして、いろいろな創意工夫をしながら挑戦していこうという、帝国ホテルスタッフの基本姿勢です。