実業団選手より短い練習時間で実績を残す公務員
川内は現在、埼玉県立久喜高校定時制課程の事務職員として、昼12時45分から夜の21時15分まで勤務している。このため平日にトレーニングができるのは午前中のみ。川内は自身のトレーニングについて、こう語る。
「私は実業団選手のように多くの練習時間を確保できません。強度の高いポイント練習は週2回で、水曜日もしくは木曜日がスピード練習(400mや1000mのインターバル走など)。土曜日に距離走(30~43km)やトレイルラン、日曜日にレースというのが流れです。あとの5日間はすべてジョグになります。ポイント練習は週に2回だけですから、そのときはいつも以上に集中して取り組んでいます。また、仕事に集中することで、競技にも集中できる。効率のよい練習というのは、仕事のおかげで身に付いた部分も大きいと思います」
マラソンに取り組む実業団の選手たちは、合宿を頻繁に行い、月間で1000km以上の距離を走り込む。一方、川内の月間走行距離は600kmほど。限られた時間と環境の中、集中して取り組むことで成果を上げてきた。
▼陸上では無名の学習院大学で才能を開花
立て続けにレースに出ているのでタフな印象もあるが、高校時代は故障に悩んでいた。埼玉県大会では上位に入れず、進学先は陸上では無名の学習院大だった。そこで才能を開花させる。高校時代は朝練習があり、ポイント練習も週に3~4回あったが、学習院大では朝練習がなく、ポイント練習は週2回だけ。「速く走る」ことではなく、「一定ペースで押していく」ことに重点が置かれていた。さらに当時監督を務めていた津田誠一氏からは、「頑張るな、頑張るな」と声をかけられていたという。
「大学での練習は高校時代と正反対だったので、当初はなかなか信じることができませんでした。でも、少ない練習量で高校時代の記録を超えたことで、この練習は正しいと思うようになったんです」
ゆとりある練習メニューが精神的な余裕につながり、故障は激減。トレーニングを継続して積むことができるようになり、川内は大きく成長した。
環境で人は変わる。自分に合った練習スタイルが見つかれば成長できることを川内は証明した。会社で思うような結果を残せていない方も、新たな発想で取り組むことができれば、事態は急変するかもしれない。