――『市場の変相』では、危機打開には多国間政策調整が欠かせず、そのためには国際通貨基金(IMF)など国際機関の役割強化が欠かせないと指摘しています。4月上旬にロンドンで開かれた世界20カ国・地域(G20)首脳会議は、IMFの融資枠を3倍にすることで合意するなど、一定の成果を出したとの見方が出ています。

世界経済にとって不幸なのは、グローバルな危機が起きているというのにグローバルな政策調整メカニズムが欠けているという点です。G20は、従来の政策調整の要だった7カ国(G7)よりもマシです。G7と比べ、G20の顔触れは世界経済の現状をより正確に反映しているからです。とはいえ、G20は政策調整の場として確固とした地位をまだ確立しておらず、合意に基づいて構成国・地域に特定の政策発動を強制する力もありません。

たとえば、G20内で多くの国・地域がいわゆる「ドミナント(主要)戦略」の位置づけで立場を異にしています。米国は追加的な財政支出を唱えている一方で、欧州大陸諸国は金融市場への規制強化を主張しています。欧米が対立するなかで、新興国は「ちょっと待ってくれ。一番重要なのは自由な貿易システムを維持することだ」と言っています。「ドミナント戦略」の面でG20が一致点を見いだすのは至難の業です。現状では、G20はすばらしい共同声明を出すことはできても、国際的な政策調整の要にはなかなかなれないでしょう。

以前ならば、国際政策調整を実行するメカニズムが2つありました。1つのメカニズムは圧倒的な大国の存在。それは米国でしたが、米国は今回の危機の震源地として弱体化しており、一国で世界をリードするほどの力を失っています。もう1つのメカニズムはIMF。現在進行中の危機はかつてないほどグローバルな広がりを持っています。理想的には、加盟国が世界185カ国に及び、加盟国の国内政策を監視する義務を負うIMFが主導権を握るべきです。

現実には、IMFは旧態依然としたガバナンス(統治)構造を今も維持しており、国際的な信頼を失っています。自力で解決しなければならない構造問題を抱えており、主導権を握る立場にありません。

構造問題は3つあります。1つ目は、加盟国に割り振られたIMFの議決権割合。たとえば、人口3000万人に満たないベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)は、人口13億人の中国よりも大きな発言権を与えられています。2つ目は、IMFのトップである専務理事ポスト。歴史的な経緯から欧州出身者の指定席になっています。3つ目は、スタッフのノウハウや知識。伝統的な経済問題には精通しているものの、デリバティブ(金融派生商品)など最新の金融革新に追いつけません。そのため、金融システムが実体経済とどのようにリンクしているのか、理解できていません。

※この連載は4回連載の1回目です。

(撮影=安部陽二)