「企業の下心は人件費削減」は本当か?
ここで検討しておく必要があるのは、「最近みられる副業許容の動きの背後には、企業が人件費を削減したいという下心があるのではないか。現状はそうでないにしても、今後そうした形で広がるのでは」という見方があることだ。
中高年の賃金カットへの補填手段や、セカンドキャリアとして他企業に送り出すステップとして位置付けられるのでは、というわけだ。人手不足が深刻化しているとはいえ、社内に中高年の余剰感を持つ企業は少なくないのが実情であろう。この先、80年代後半のバブル期の大量採用世代が本格的な中高年期を迎える。加えて、「同一労働同一賃金」の導入で非正規労働者の処遇改善が求められれば、どこかでこれに対応するための人件費を捻出しなければならない。
政府も副業・兼業を「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段」としてのほか、「第2の人生の準備」としても位置付けている。個人としても、平均寿命が延びる一方、公的年金支給額は今後抑制されていく方向にある。50歳代後半には役職定年、60歳前半は継続雇用となり、重要ポストから外れるとともに賃金が大きく削られる。ならば、副業・兼業で転職や独立の機会を得ることができれば、働きがいや老後収入を増やすことができる。このように考えれば、中高年の兼業・副業の推進は、「下心」があろうとなかろうと、企業・個人の双方にプラスになるように思える。
しかし、現段階で、とくにこれまで暗黙も含め終身雇用を標榜してきた企業が、そうした思惑のもとで中高年の副業の奨励や、さらに進んで「50歳代は賃金大幅カットだが副業を積極的に認める」といったことを行うのは危険である。そうなれば中高年従業員は本業でのモチベーションを一気に低下させ、せっせと副業にいそしむようになるだろう。彼らが単に会社に居るだけに近い状態になると、しわ寄せは若手・中堅に行くことになり、全体のモラールが低下して職場崩壊につながりかねない。副業許容とセットで大幅な賃金カットが行われる場合、そもそも不利益変更だといって従業員の反乱を招く恐れもある。
こうした事態となるリスクがあるのは、わが国での企業と従業員の関係が、親子関係にも例えられる「パターナリズム」の状態に、依然としてあるからである。企業は職業人生を通じて面倒をみてくれるから、仕事最優先ですべてを企業に尽くす、という関係である。こうした関係の維持が困難なことに多くの労働者はうすうす気づいているが、企業の方からそうした関係の解除をにおわすことがあれば、一気に信頼関係が崩れ、必要以上のマイナス行動を誘発してしまうリスクがある。