第6次産業の手法を導入する

【田原】いま社員は何人ですか。

【青木】14人です。売り上げはおよそ8000万円。公共事業の元請けが6割、木材の販売が3割、残りの1割は、林野庁からの支援です。

【田原】公共事業は行政次第だから、自前で売り上げを伸ばせるのは木材の販売のほうですね。どういう戦略を立てていますか。

【青木】木材は丸太で販売すると利益率が低いんです。だから工房で商品に加工して付加価値を高めてから売るという戦略が1つあります。また、一般に木材で使われるのは幹のいい部分だけで、歩留まりが悪い。もったいないので、従来なら山に捨てていた部分をあますところなく使って、1本の木からの売り上げを増やしていくことも考えています。

【田原】でも、捨てていた部分は売れないから捨ててたんじゃないの?

【青木】意外にニーズはあるんです。たとえば二股の木は普通、売れないと思いますよね。でも、「店舗の看板を置きたい」とか、「保育園で、木の様子がわかる柱として使いたい」というお客様もいる。これまではそういうニーズを持ったお客様がいても、どこに買いにいけばいいのかわからなかったし、売るほうも積極的に提案しなかった。だから捨てられてきたのですが、個性的な木材を欲しい人がきちんと商品にたどり着ける道をつくれば、捨てなくて済む。いまカタログをつくって、インテリアや内装の会社に配って営業を仕掛けています。

【田原】おもしろい。いままで受け身だった業界に、攻めの発想を持ち込んたわけだ。青木さんが「衰退産業こそフロンティア」とおっしゃる意味がよくわかりました。

【青木】いままで何もやってきていなかったわけですから、伸びる余地が大きいことは確かです。いま農業は6次産業の成功事例がいろいろ表れ始めていますが、林業ではまだほとんどありません。私たちがその事例をつくれればいいなと。

【田原】青木さんのように、林業で新しい挑戦をしている若い人はほかにもいるのかな。

【青木】林業への参入は増えているし、まだ少数ですが、私たちと同じように独立している人たちも現れ始めています。新しいビジネスについては地域で温度差があって一概にいえませんが、なかには木材を使った発電をするなど、ユニークな取り組みをしているところもあります。

【田原】青木さんの夢を聞かせてください。日本の林業をどうしたい?

【青木】いま日本がこれだけ経済活動できているのは、自然環境に恵まれているからです。たとえば水には困らないし、気候は安定している。こうした環境の基盤は森林であり、日本経済のためにも林業を産業として成り立たせる必要があります。私たちもそこにしっかり貢献していきたいです。

青木さんから田原さんへの質問

Q. 日本の林業には何が必要ですか?

衰退産業には、たいてい何か構造的な問題があります。今日お話を聞いた限りでは、林業もそうでしょう。ただ、最終的には「人」ですよ。大切なのは、夢を持った人が集まっているかどうか。業界をよくしようと本気で考えている人たちがいれば、問題も乗り越えられるはずです。

では、どうすれば夢を持った人が集まるのか。それには青木さんのような人がロールモデルになって、「林業はおもしろいんだ」といい続けることが重要です。子どもたちに肌感覚として林業のおもしろさを伝えることも大事でしょう。家族で植林する「東京美林倶楽部」の取り組みは、長い目で見て林業の振興に役立つと思いました。ぜひ頑張ってほしいですね。

田原総一朗の遺言:夢を語れば人は集まる!

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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