林業は半世紀先の木材価格に左右される

【田原】目標の月給は稼げましたか。

【青木】はい、何とか。ただ、一方で限界も見えていました。体力勝負でぎりぎりまでやって月給30万円。それ以上を目指すなら、森林組合の下請けから抜け出して、山主さんから仕事を直接受けられるようにならないといけない。仲間と議論した結果、もともといた4人のうち2人は元請けに反対。そこで2つに分かれて、新たに3人を採用して、計5人で2010年から元請けを始めました。

【田原】元請けですか。山主さんとのパイプはあったの?

【青木】じつはいま林業は公共事業化しています。山を所有しているのは個人の山主ですが、もう多くの山主さんは自分で山の手入れができない状況。山は個人の資産ですが、きちんと手入れをしないと、水源涵養や土砂流出予防といった山の機能を保てなくなる。それはまずいということで、東京都や国が山主と契約して山の手入れをする森林再生事業を始めました。元請けになれば、その仕事を直接受託できます。

【田原】目論見どおり仕事はもらえたのですか?

【青木】当時、林業をやる事業主体は森林組合くらいしかありませんでした。競争の原理が働かないから、東京都や檜原村の人たちは森林組合に頭を下げて手入れを頼んでいた。そこに私たちが「仕事をください」と出てきたものだから、わりと大事にしていただけたと思います。

【田原】なるほど、森林組合は威張っていたわけね。

【青木】あはは、私の口からはいえませんが(笑)。もう1つ、東京都が花粉対策事業を始めていたことも大きかったです。花粉の発生源であるスギやヒノキを伐採して、品種改良で花粉を少なくしたスギやヒノキに植え替える事業です。当時の石原慎太郎都知事が花粉症だったから始まったと噂されましたが、おかげで公共事業が増えて私たちにも仕事が回ってきました。

【田原】青木さんは元請け仕事以外にも新しいことにいろいろ取り組んで、林業を儲かる仕事にしようとしている。たとえば「東京美林倶楽部」を始めたそうですね。これは何ですか。

【青木】私たちは人の山の手入れをするだけでなく、自分たちで山を買って木材の生産も手がけています。所有しているのは檜原村にある約10ヘクタールの山。私たちはここから生産された木材を使って、自治体からの補助金なしで林業を成り立たせることを目標にしています。ただ、問題は木を植えてから収穫するまで50~60年かかることです。林業は半世紀先の木材価格に左右される、まったく先の見えないビジネス。この欠点をどうにかできないかと思って始めたのが、会員制の森林体験プログラム「東京美林倶楽部」です。