韓国政治の文脈では、進歩・左派層は、半ば土着的な民族主義感情の下地になる「第二地域」的な文明の「底層」の意義を重視する。一方、保守・右派層は、「第一地域」的な文明の「表層」が剥げ落ちないように腐心する。そして、文在寅(韓国大統領)の対外政策展開は、前者の進歩・左派層の姿勢を鮮烈に反映したものであるといえる。

「朝鮮半島の非核化」をめぐる対立の背景にあるもの

南北首脳会談や米朝首脳会談の焦点である「朝鮮半島の非核化」の議論に際して、日米両国と中露韓朝4カ国が対峙する構図の浮上は、それが梅棹の披露した「第一地域」と「第二地域」との確執の様相を表していると解すれば、何ら不思議なものでもない。日米両国はこれまで、北朝鮮の核・ミサイル開発について、「完全、検証可能、かつ不可逆的な方法での放棄」を政策目標に掲げて、対朝圧力を徹底させてきた。これに対し中露両国は、日米両国が取る圧力主体の姿勢には距離を置いてきた。

3月下旬の中朝首脳会談の際、中国外務省は、「(米韓両国が)われわれの努力に善意で応え、平和実現に向けて段階的で歩調を合わせた措置を取るなら、半島非核化問題は解決できる」という金正恩の言葉を伝えている。また、『日本経済新聞』(4月9日配信)記事は、韓国大統領府部内に「非核化の履行は、経済制裁の緩和も含めて段階的に進めるしかない」という意見が出ていることを報じている。中露韓朝4カ国がイメージする「朝鮮半島の非核化」の過程は、この「段階的非核化」案が想定するものに収斂しつつあるようである。それは、金正恩が「核実験とミサイル発射の凍結」を宣言した後でも、大して変わってはいない。

しかしながら、北朝鮮の核・ミサイル開発がなぜ、国連安保理決議による制裁の対象とされてきたかという経緯を踏まえれば、そのような「段階的非核化」案は、北朝鮮から絶えず「敵意の言葉」を投げ付けられてきた日米両国には受け容れがたいものであろう。というのも、日米両国を含む「西方世界」の認識では、北朝鮮の核・ミサイル計画放棄は、北朝鮮が「悪漢国家」としての立場を脱し、国際社会に迎えられるための当然の仕儀であって、それによって何らかの「報酬」を得られるという筋合いのものではないからである。

南北首脳会談に際して発表された「板門店宣言」では、「南北は完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認し、非核化のための国際社会の支持と協力のために積極的に努力する」と記されているけれども、それは、日米両国が要求する線を満たすには程遠いものであろう。

西方世界vs.中露韓朝という図式

「第一地域」と「第二地域」との確執は、現下の西欧諸国とロシアの関係にも表れている。3月上旬、英国ソールズベリーでロシア元諜報部員母父娘が神経剤によって殺害されかけた一件以降、ロシアが事件に関与した主張する英国と、それを否定するロシアとの関係は、「冷戦終結以後、最悪」と評されるまでに険しいものになった。

英露関係の悪化は、英国を含む「西方世界」諸国とロシアが、互いに外交官の追放や制裁・報復発動の応酬に走る風景を出現させた。これもまた、専制・強権性向の色濃い「第二地域」としてのロシアから、「第一地域」としての英国に対して火の手が放たれ、これに主に「第一地域」に位置づけられる国々が猛烈に反発している構図であると説明できる。