長男「これでは生活できない。食費だけでなくなる」
相談員と一対一になった長男は「これでは生活できない。食費だけでなくなってしまう」と、これまでの強気の態度とは一変して、すがるような瞳で懇願してきた。
「食事が心配なら、同じ障害をお持ちの方が入居できる施設があります。そこなら、食事の支度はスタッフが行うので心配ありません。暮らしていけますよ。入所を希望されるなら、ご相談ください」
その言葉を聞いて安心したのか、しばらくの間、静かに通帳を見つめていた。彼が何を考えていたのかはわからない。ただ、背中を丸め、通帳を見つめる姿に、私は胸を締め付けられた。親子のボタンの掛け違いはいつから始まったのだろうか。彼はお金を要求することで、親の愛を図ろうとしていたのかもしれない。
▼長男からのお金の無心はぴたりと止まった
数カ月後、私は母親に電話をかけた。すると長男からのお金の無心はぴたりと止まったとのことだった。
子どもの要求に対して、親が譲歩しないこと。客観的な資料を用意したこと。相談員の同席により、逃げ場があったこと。それらの要素が、現実を受け入れ、一歩を踏み出す結果につながったのではないか。そう考えさせられた事案だった。
「普段から口うるさかったから殺した」。今年4月、鹿児島県日置市で父や祖母など男女5人を殺害した男は、そう供述しているという。男は仕事もせず、ひきもりがちだったようだ。ひきこもる子の暴力に対して、家族はどう立ち向かえばいいのか。
今回の家族のケースは、ひきこもる子を再生に近づけることで、結果的に家族を守ることができた。悩むだけでは事態は解決しない。ぜひ外部の専門家に相談してほしい。
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