長男への仕送りを完全に打ち切らなかった理由
仕送りを完全に打ち切らなかったのには、2つの理由がある。
1つは、公営住宅は希望すればすぐに入れるものではないからである。募集期間は限定されていて、人気も高い。入居までのつなぐ資金も必要だが、今ならつなぎ資金を出すことができる。入居できれば、長男の自立を促すことができる。
2つめは、今回の提案(改善案)がラストチャンスであることを長男に理解させるためだ。
今なら2年分の家賃とは別に、長男に月3万円の仕送りができる。しかし、1年引き延ばすと、収支の関係から仕送りは月2万円に減る。さらに1年先送りすると月1万円、3年先送りすると、資金がショートするため仕送りは不可能になる。だから、冷静に数字をみれば、今この提案を受け入れることが、長男にとって利益を最大化することになるのだ。
また、「家を売ればいいじゃないか」と言われた場合を想定して、資金がゼロになる3年目に自宅を売却し、今の生活を続けるシミュレーションを作った。すると、6年目で資金が足りなくなることがわかった(図表2:近隣の不動産価格等を参考に、売却後の手取り益を2000万円、売却後に発生する家賃月12万円で計算)。
▼母親「長男は私を攻撃してくると思います」
前述の3つの見直しを行った場合、父親が再雇用先を退職すると、やはり単年度では赤字になってしまうが、赤字額が小さいので、父親95歳、母親93歳まで金融資産が残り、自宅を手放さずにすむことがわかった(図表3)。
一通り説明をしたところ、父親から「これを実現させれば、私たち家族の生活は守られるのですね」と聞かれたため、私は「はい、その通りです。長男が何を言っても絶対に折れないでください」と答えた。
それを聞いた母親は「長男は私を攻撃してくると思うので、一切、口を開かないようにします。先生、私の想いを代弁してください。どうぞよろしくお願いします」と言って、深く頭を下げた。