日本人はモテるのだろうか、それとも逆に反日感情で嫌われるだろうか、と気になっていたが、国籍を聞かれて、

「日本人です」

と答えても、

「あっそう、中国語上手だね」

という程度のものだった。プラスにもマイナスにも作用していないようで、日本人だからモテる、あるいは嫌われるということは特に感じなかった。ちょっと拍子抜けだ。

後日、1990年代から上海に滞在しているという日本人男性に話を聞いたところ、

「90年代は外国人=お金持ちのイメージがあり、なかでも日本人は地理的にもっとも身近な外国人だった。水商売の女性にとっては、日本人と結婚することに家族の運命がかかっており、日本人というだけでモテたのは事実。今ではすっかりそんなことはなくなりましたね」

と話していた。この十数年の間で、日本人=お金持ちのイメージは完全に崩壊してしまったようだ。

「家なしで結婚生活はできない」

全体的に男女とも垢抜けない雰囲気が漂うなか、一人だけピンとくる女性がいた。日本でもモテそうな卓球選手の福原愛似の顔立ちで、服装も黒のスーツスタイルで落ち着いている。洗練された雰囲気に魅力を感じ、積極的に話しかけた。名前は陳さんという。

「好きなタイプの男性は?」

「誠実で優しくて、向上心のある人かな」

彼女は化粧品販売の仕事をしているそうで、そのため身なりにも気を使っているのだろう。だが、一つ心配なことがあった。中国人女性は結婚相手にとかく経済力を求めるもの。中国事情に詳しいジャーナリストの福島香織氏は月刊誌『新潮45』に寄稿した記事で、中国人の結婚観について次のように説明している。

「中国の男女の結婚観はもともと『条件婚』が圧倒的に多く、条件の最前列にくるのが、収入、戸籍、学歴、身長。その条件が満たされないと、恋愛感情などありえない」

性格が合う合わないは、こうした諸条件をクリアした上で考える話なのだ。陳さんにズバリ聞いてみた。

「交際相手の収入は、いくらぐらいが希望?」

「私と同じぐらいならいいわよ。毎月7000~8000元(12万円前後)ぐらいかな」

拝金主義のはびこる中国なので“三高(高収入・高学歴・高身長)”を要求されるかと思いきや、意外と現実的な金額だ。あまり高望みはしていられないと、すでに悟っているのかもしれない。

中国では結婚した夫婦は持ち家に住むべきとの価値観が根強く、借家住まいの男性に結婚する資格はないという風潮すらある。そのあたりはどうなのか。

「相手が家を持っていたらベストだけど、なければ2人で年ローンを組めばいい。ローンは精神的にも負担があるけど、家なしで結婚生活はできない。親が心配する」

ローンを払い終わる頃には、私は60代となって初老を迎えている。想像するだけで眩暈(めまい)がしてきた。大家の都合で簡単に住人が追い出されてしまう中国では、持ち家は絶対的なステータスなのだ。