とにかくだらしない生活を送りたい
竹山さんは生命保険の満期を迎える60歳で退職した。「とにかく早く辞めたい」という一心だったそうで、「そのまま働いていたら、今頃こうして生きてないですよ」と後悔もしていない。
――辞めて、まずどうされたんですか?
彼ははにかんだ。
「私は特にやりたいってことがないですから。趣味もありませんし。ただ、楽したい。だらしない生活をしたいと思いましたね」
――だらしない、ですか?
「例えば、信号が点滅するでしょ。以前だったら、変わる前に早く渡らなきゃ、と急いでいたんですが、それをやめてゆっくり歩く。まわりの人に合わせない。自分のペースでゆっくりと。それだけで違った風景が見えてくるんですよ」
彼はまず生活態度を変えたそうなのである。
――他には何か……。
「何かしなきゃいけない、と思って公民館にも行ってみました。いろいろなクラブを見学してみたんですが、ああいうところには必ずボスみたいな人がいるんです。それじゃ会社に行くのと同じじゃないですか。蕎麦打ち教室にしても、『教える』『教わる』という関係自体が力関係ですよね。私は長年の癖で、人に会えばついニコニコしちゃう。そんなのしたくないんです。この前も釣りに行ったんですけど、釣りに来ていた人が、そこに住んでいるホームレスのおじさんに『バケツ持ってきてくれよ』とか命令してました。人に何かを頼むなら『バケツ貸してください』と言うべきでしょ。そういうのを聞いただけでも、もうイヤになっちゃうんです」
小遣いを銀行振り込みにしてもらった理由
会社を連想させるものはすべて拒絶したくなるのだろうか。聞いていると、何もかもイヤという勢いなので「釣りもされるんですか?」と趣味らしき話に戻そうとすると、彼はこう説明した。
「前は週1回か2回行っていました。でもエサ代が高いんですよ。350円もしますから。途中で日経新聞を買ったりすると、それでもう500円になっちゃう。大体、僕の小遣いは月1万5000円ですから」
――決まっているんですか?
「はい。自分でそう決めました」