法人税を低くして、それを国民に還元する仕組み

スウェーデンの場合、経済成長率も先進国の中では高く、毎年3%前後の成長が続いている。高成長が続く大きな理由の一つに輸出の好調があるが、その裏には低い法人税の存在がある。スウェーデンは自動車や重火器などの製造業に強みを持つ輸出立国であるが、経済協力開発機構(OECD)によると、スウェーデンの法定実効税率は22%と日本やドイツ(約30%)に比べて低い。

つまりスウェーデンは、低い法人税をテコに高い国際競争力をキープし、高成長を実現しているわけである。加えて、企業が輸出をして得た所得を家計に還元し、政府は徴税を通じて家計から所得を吸収した上で、それを再配分するという仕組みが成立している。企業の高い国際競争力を維持しつつ、それを国民に還元するメカニズムを、官民一体となって構築しているのだ。

残念ながら日本の「改革」は手遅れ

一部には、こうしたスウェーデンの「高福祉高負担モデル」を日本に適用すべきだ、とする主張も根強くあるが、それは残念ながら不可能である。

まず、日本の少子高齢化ペースはスウェーデンに比べると速い。これは現役世代や将来世代の負担増が回避できないことを意味する。福祉をより充実させようとすれば、現役世代や将来世代の負担がますます増えてしまうのだ。現役世代や将来世代にばかり負担を強いるわけにはいかない。これからの日本では、公共サービスを切り詰めるしかない。

言い換えれば、日本もスウェーデンのように、少子高齢化がまだ将来的な課題であった90年代の時点で社会保障改革に取り組むことができれば、現状は違っていたかもしれない。当時の日本は未曽有の不良債権問題に揺れており、社会保障改革など不可能だったという人もいるかもしれないが、スウェーデンもまた不良債権問題を抱えていた。将来的な課題を見据えて改革したか、それとも見送ったかいう差は大きい。

世代間の不平等が拡がれば、脱税や年金未納が増える

少子高齢化と関連して、日本の社会給付制度は高齢世代に手厚い一方で、現役世代や将来世代に薄いという問題がある。このままでは世代間の不平等が拡がり、現役世代や将来世代の政府に対する信用低下も避けられないだろう。脱税や年金未納はさらに増えるかもしれない。

他方で、政治家にとって高齢者は大票田であるため、負担増を強いることは容易ではない。こうした政治風土がある中で、日本がスウェーデンのように現役世代や将来世代にも配慮した福祉政策を、高齢世代の負担増を強いる形で導入することはまず不可能である。

また日本は人口が1億2000万人と多く、国民的な合意形成が難しい。スウェーデンは人口が1000万人弱で、その多くが相互扶助に重きを置くキリスト教徒(スウェーデン国教会)であり、文化的価値観を共有している。旧世代が作り上げてきた高福祉路線を次世代に繋ぐという意識が強く、次世代にもそれが当然という意識があると考えられる。