大学病院は百貨店と同じ末路をたどる

東京の総合病院の中でも、もっとも倒産リスクが大きいのが私立大学病院である。なぜかといえば、経営が傾いて破綻しそうなときに、国公立大学や国公立病院とは違って、税金の注入といった公的支援を期待しにくいからだ。さらにここでも総花的な診療科目が足かせになる。

ほかの総合病院であれば、儲からない診療科を閉鎖するという「外科手術」も可能だが、大学病院は医学の教育機関という性格上、あらゆる診療科目を網羅しなければならない。さまざまな行政上、法制上の規制もあって、たとえ不採算の診療科であっても、簡単に看板を下ろせない。お荷物の診療科を抱えていると、強みのある診療科もつくりにくくなって、専門病院に患者を奪われるようになった。

首都圏の私立大学病院は、専門店との競争に敗れた百貨店と、同じ末路をたどっているのである。結果、診療報酬だけでは経営が立ち行かないため、高い学費で埋め合わせているのが現状だ。現に東京女子医科大学病院や日本医科大学病院は、財務諸表を見る限り、かなり危機的な状況である。

病院倒産で真っ先に被害を被るのは地域住民

それでは、大学病院の経営を再建する手立てはないのだろうか。私は、大学病院を救済するなら、思いきった規制緩和が必要だと考えている。

大学病院は大学医学部の教育研究に必要な施設として位置づけられているが、大学が病院を手放すという方法もある。米国の医学部のように、医学生の研修はほかの病院と連携して実施すれば、支障はないはずだ。また、アジア圏からドクターや看護師を受け入れるのも有効な手段になるだろう。放射線科医であれば患者に接する機会はほとんどないから、言語の壁もない。日本人と同じ待遇でそれ以上に働いてくれれば、コストは下がる。

大学病院の倒産が現実のものになったとき、真っ先に被害を被るのは地域住民だ。かかりつけの診療所から大学病院を紹介してもらうといった、地域医療連携が途切れてしまうし、大学病院は地域経済の中核にもなっているので、周辺の商工業者に与えるダメージも甚大だ。大学病院には、高度急性期医療を必要としている患者も少なくない。受け皿となる医療機関にスムーズに移れるような取り組みが求められる。政府は、国有化も視野に入れた病院の破綻処理のスキームを、早急に整備すべきである。

ただしこうした議論は、なかなか活発にならないだろう。かつて北海道拓殖銀行が都市銀行として戦後初の破綻をしたとき、その衝撃があってから、ようやく政府は重い腰を上げて制度の整備に動くようになった。近い将来、大きな病院が破綻し、泣いている患者の映像がニュースにでも流れないと、誰も目を覚まさないような気がする。