獲得目標は「信頼の回復」。トップ自身による事実の徹底確認が必要

危機管理対応においては、事実確認こそがイロハのイである。誤認した事実を前提として説明したり、対応策を考えたりしても全く無意味なことであるし、また当初説明していた事実と異なる事実が出てくれば、それだけで信用はガタ落ちとなる。

不祥事的な危機事態が生じたときの対応として、最も重要な獲得目標は「信頼の回復」である。そうであれば危機管理対応の過程において、信用を落とすようなことは絶対にやってはいけない。信用を落とす一番のものは、虚偽の説明である。意図的な虚偽でなくても、説明していた事実と異なる事実が出てくれば、それは大きく信用を落とすことになる。ゆえに不祥事的な危機事態が生じた時にやらなければならない、何よりも肝心なことは徹底した事実確認である。

そして大組織であればあるほど陥る罠に、トップは組織の報告を鵜呑みにしてしまいがちというのがあるが、その罠にはまってはいけない。確かに組織トップは、当該問題だけを扱っていればいいわけではない。トップはあらゆる膨大な量の案件に対応しなければならないがゆえに、現場で起きている状況の全てを細かく詳細に把握することには、非常にエネルギーを要する。だから危機事態が生じた時に、トップは、事実確認を組織からの報告についつい委ねてしまいがちになってしまうが、そのような罠に引っかかってはいけない。危機事態における事実確認はトップ「自らの手」で直接行うことが原則だ。

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もし安倍政権が森友学園・加計学園問題について、これらは自らの手で全力対応すべき問題ではないと認識し、その事実確認については財務省や内閣府という組織からの報告を信用しきってしまったのであれば、そこが失敗の第一だ。

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「事実は隠し通せない」という大前提で動くべし

そして、日本のような成熟した民主国家においては、事実は隠し通すことができないことを肝に銘じなければならない。報道の自由が保障されている社会においては、複数人が知っている事実は、必ずどこからかその事実は明らかになってくる。必ず誰かが喋る。メディアが必ずキャッチする。また電子データは拡散されて必ずどこかに出回っているし、会話はICレコーダーで録音されていることを前提にしなければならない。

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森友学園問題では、佐川宣寿元理財局長が、事前の価格交渉はないと強弁していたのに、事前の価格交渉をしていたような会話が録音されているICレコーダー録音が出てきた。財務省理財局があれだけ必死になって関連書類を廃棄してきたのに、文書改竄の事実が結局はメディアによって明らかにされた。さらには前述のように、土地価格値引きを巡る不正の事実が次から次へと出てくる。加計学園問題では、首相秘書官が、加計学園サイドとは事前に面会していないと強弁していたのに、面会を匂わすメモが出てきた。

こうなってくると、信頼失墜のスパイラルが止まらない。

安倍政権はこれまで支持率を下げては回復するという復活のパターンを何度も経験してきた。それらは、国民の中で激しく賛否が割れる政策について実行したがゆえに一時は支持率を下げたが、時間が経って国民が冷静になると支持率が回復したというものばかりである。これは政策・改革を断行する上での付き物である。

ところが今回は信頼失墜による支持率の低下である。時間が経って自然に回復するこれまでのものとは質が異なる。

信頼失墜による支持率回復のためには、信頼回復のための積極的な行動が必要だろう。安倍政権絶対擁護派は、森友学園・加計学園問題は取るに足らない問題で、一部メディアがねつ造した問題だと主張するが、そんな主張では国民の信頼は回復できない。安倍政権の直接の関与・指示や違法・不正はなかったにせよ、何が問題で、何が信頼失墜の原因で、どこに不信感を抱かれてしまったのかについて、国民の視点で考えるべきである。このような視点では、論理的な正当性はともかく、昭恵夫人が森友学園の名誉校長に就任し、そこで根拠不明な億単位の土地価格値引きがなされていることや、約50年ぶりに獣医学部の新設が例外的に認められた大学の理事長と安倍さんが、その決定の1年前ほどの期間に会食やゴルフをしていたことに、国民が何となくの不信感を募らせるのは至極当然のことである。

日本は中国やロシアなどの民主主義後進国ではない。政治家に可能な限りの潔白性・廉潔性を求める民主主義先進国である。そんなところまで求めるな! 今回は大した問題ではない! 偏向メディアのねつ造だ! と言ったところで、国民からそっぽを向かれてしまえば政治ができなくなるのが民主政治である。このことを踏まえた振る舞いこそが、政治の危機管理対応の柱である。

(ここまでリード文を除き約3000字、メールマガジン全文は約1万2000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.100(4月17日配信)を一部抜粋し、修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【超実践・危機管理】森友・加計問題はなぜ収束しないのか!?》特集です!

(写真=iStock.com)
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