そうこうするうちに、ボランティアで働いていた人が押し寄せる若い難民たちを怖がりはじめ、それまで食料をもらいに来ていた人たちもターフェルを離れていった。ここに至って、分け隔てなく助け合うというのがモットーで、皆が決まりを守って運営されていたターフェルが、機能しなくなってしまったのだ。

善意の活動が「ナチ」という中傷の標的に

これはもう限界ということで、2018年1月、エッセン市のターフェルの代表がついに、「混乱が収まるまで、新規加入者はドイツ国籍の所有者に限る」と発表した。「私たちは、ターフェルに皆が再び来られるように努力します。いま、ドイツのおばあちゃんたちや、小さな子供を抱えたシングルマザーたちが、来られなくなっています。新規加入者の制限は一時的なもので、夏休みのあとまで続くことはないしょう」。

『そしてドイツは理想を見失った』(川口マーン惠美著・KADOKAWA刊)

ところがその途端、人種差別であるとして大非難が巻き起こったのだ! 間もなく夜中に、この配給所のドアと外に止まっていたクルマに、「ナチ(Nazis)」「くたばれナチ(Fuck Nazis)」とスプレーで落書きが吹き付けられた。ドイツでナチというのは、最も強い誹謗(ひぼう)だ。

それに追い打ちをかけるように、ベルリンのSPD(ドイツ社会民主党)の政務次官(39歳・元パレスチナ難民の女性)がツイッターで、「背筋がゾッとする。ドイツ人だけに食料。難民はシャットアウト」と意見表明。

しかし、これらは事実とは違う。ターフェルにおける外国人の割合は、この2年で35%から75%にまで膨れ上がっている。中東難民だけではなく、東欧から職を探しに入っているEU内の外国人も多い。いずれにしても4人に3人が外国人で、元いたドイツ人たちを押しのけている、というのが現状だった。

それにもかかわらず、エッセン市のターフェル叩きは止まらなかった。やはりSPDのカール・ラウターバッハ議員(55歳・男性)が、「空腹は皆、同じだ。外国人排斥がもっとも貧困な者たちのあいだにまで広まったのは残念」とツイート。そして2月28日、メルケル首相までがRTLテレビのインタヴューで、「このような分け隔てはよくない」。さらに同じくCDU(キリスト教民主同盟)のノートライン-ヴェストファレン州の社会相も、「隣人愛と慈愛には国籍はないはず」などなど、要するに、同ターフェルは、政治家たちの非難のターゲットとなってしまったわけだ。