既存政党とメディアはそのAfDを蛇蝎(だかつ)のように扱い、あらゆる手段を使って勢力伸長を妨害した。AfDはテレビのトークショーでもちゃんとした発言の機会を与えられず、タブーであった「ナチ」という言葉さえ投げつけられた。しかし、彼らの難民政策と経済政策、そしてエネルギー政策は、CDUのものよりも矛盾が少なく現実的だ。スタンスはどちらかというと反グローバリズムだが、保護主義とは違う。冷静に聞いてみれば、いわゆる保守政党として当たり前のことをいっているにすぎないことに気がつくはずである。
結局、今回の選挙で、彼らはCDU/CSU、SPDに次ぐ第3勢力に収まった。急伸の理由は、本来、保守であったはずのCDUがあまりに左に寄りすぎたためだ。いまや、メルケル首相の難民政策とエネルギー政策を、緑の党が一番称賛している。つまり、CDUの右側には自(おの)ずと大きな空白ができて、そこにAfDがぴったりとはまり込んだのである。
「理想」以外の選択肢を認めないメルケル
いずれにしても、議席を獲得したAfDは、メルケルにとって危険きわまりない存在になることが予想された。だからこそ、第3メルケル政権の最後の国会で、与党は急遽(きゅうきょ)、AfDの支持基盤であるインターネット世論を押さえるため、違法性の高いSNS(会員制交流サイト)規制法を駆け込み制定した、と私は見ている。
AfDとはまさに、理想を錦の御旗にして選択肢を一つに絞り込もうとするメルケルの手法に対するアンチテーゼでもある。彼女は超法規的措置によって政策決定を行った際、「それ以外に選択肢がない」という言葉を使った。そうではない、他の選択肢もある、という抗議の意が、AfDの「ドイツのための選択肢」という命名に込められているのである。
しかしいま、異なった政治思想をもつ存在を締め出すことが、ドイツでは正当化されている。その事実に、私は驚きというより戦慄(せんりつ)を感じるが、現在のドイツでの「正しい意見」は、「民主主義の価値観を共有できない人間は仲間に入れない」というものだ。