異論を認めない「正義」のゆくえ
ドイツには「戦う民主主義」という考え方がある。かつてヒトラーが、民主主義の手続きに基づいて民主主義を廃止していったことへの反省から、「民主主義の廃止につながる自由」だけは認めないという考え方だ。ドイツの政治家やメディアがAfDを潰(つぶ)そうとしているのは、その「戦う民主主義」の精神にのっとっているだけなのだろうか。
私が一番恐れるのは、みなが正しいことをしているつもりで、静かに言論統制が進むことだ。それこそが、実は理想を追求しているようで他の議論を認めないという、民主主義やリベラリズムに対する背信である。
ドイツの求める理想は、いったいどこへ行き着こうとしているのか。彼らの苦闘、そして、EUという共同体の実験は、私たち日本人にとってもじっくり観察する価値がある。
川口マーン惠美(かわぐち・まーん・えみ)
作家(ドイツ・シュトゥットガルト在住)
日本大学芸術学部卒業後、渡独。85年、シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。著書に、『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』(講談社+α新書)、『ヨーロッパから民主主義が消える』(PHP新書)ほか多数。16年、『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)で第36回エネルギーフォーラム賞・普及啓発賞、18年、『復興の日本人論』(グッドブックス)で第38回エネルギーフォーラム賞・特別賞を受賞。
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