同様に、自分が歩みそうなキャリアを重ねている上司や先輩がいたら、その人のコミュニケーションの機微をよく学んだり、上司と部下の間でどう立ち回っているのかを見つめたりしておきましょう。また、その人が、たとえば腰痛や肩こりに悩んでいる様子があったら、そうした悩みは職業病として将来あなたにもやってくる可能性が高いと想定しておくべきです。上司や先輩をただの他人と見てかかるのでなく、将来の自分自身との共通点を想像しながら観察し、話を聞ける機会にはいろいろ聞いてみましょう。うまくいけば、あなたがその立場に立つことになった頃の未来情報がどっさり手に入ります。
このような「お手本戦略」を採るにあたってのポイントは、ある程度敬意を持てるような上司や先輩をお手本に選べるかどうか、です。
人間は、自分が敬意を感じていない相手からよりも、敬意を感じている相手からのほうが、多くのことを素直に学びやすいものです。まねようとする際にもコピー・アンド・ペーストの精度が高くなります。また、コピー・アンド・ペーストしているさまを相手に気付かれても、毛嫌いされずに済む確率が高くなります──あなたが敬意を持ちながら学ぼうとするぶんには、上司や先輩もまんざらではないということです。
上司や先輩から自分の未来の情報を引き出す
それゆえ、あなたが他人のことを軽蔑しがちな人物なのか、それとも他人に敬意を払いがちな人物なのかによって、「お手本戦略」の成功確率はだいぶ左右されるでしょう。他人の短所にまず目がいく人より、長所にまず目がいく人のほうが、年上のロールモデルを見つけやすく、そこから未来の自分に役立つ情報や教訓を学び取りやすい、とも言い換えられるかもしれません。
世の中は常に移り変わっているので、上司や先輩のまねをすればなんでもうまくいくわけではありません。年齢や職業にまつわる普遍的なところは自分の世代でも役に立つ可能性が高そうですが、時代やテクノロジーや流行によって変化しそうなところをまねしたところで、じきに時代遅れになっていくでしょう。自分の世代に適用して構わない部分と、合いそうにない部分は見分ける必要があります。
しかし、そういった見分けができる限りは、職業やライフスタイルや性格が似ていて、ロールモデルにできそうな上司や先輩は、あなたの未来を見据えるための情報の宝庫です。彼らの生きざま、生態、日頃のぼやきなどから、未来の参考になりそうな情報をどんどん引っこ抜きましょう。
精神科医
1975年生まれ。信州大学医学部卒業。専攻は思春期/青年期の精神医学、特に適応障害領域。ブログ『シロクマの屑籠』にて、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている。著書に『ロスジェネ心理学』『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)、 『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)がある。