「ダメ出し」がデフォルトな上司が部下を潰す

大手広告会社の電通において入社1年目の女性社員が過労自殺した問題では、長時間労働ばかり問題視されることが多い。しかし、あの問題の根幹にあるおじさん上司の部下に対する「コミュハラ」も見逃してはいけない。「女子力がない」「残業時間はムダ」「髪ぼさぼさで出勤するな」。(自殺した)彼女のツイッターから垣間見える上司の言葉は、ねぎらいや励ましではなく、典型的な「ダメ出し」コメントばかりだ。

そもそも、人は「ネガティビティバイアス」といい、ポジティブな情報よりネガティブな情報に意識がいきやすいことがわかっている。

写真=iStock.com/NicolasMcComber

だから、上司は部下のネガ情報にばかり目が行き、「ダメ出し」をするし、部下はポジティブなフィードバックよりネガティブなフィードバックばかりが気になってしまう。そんな「ネガ」主流のコミュニケーション文化では、社員をうまく動機付けなどできるわけもない。社員が日本の会社になかなか「やりがい」や「満足感」を覚えにくい理由の一つになっているのではないだろうか。

日本の職場の中でも、特にスポ根的なテストステロン(男性ホルモン)カルチャーの企業はこうした傾向が強い。そういう会社で厳しい競争に勝ち抜き、出世するのは、矢のような「ダメだし」に耐え抜く「鋼(はがね)の精神力」を持った企業戦士であり、部下の身の上を心配するような「共感力」の高い人であることは少ない。

部下を叱咤し、統率するそうした上司は成果を出しやすいので、幹部の覚えもいい。残業も厭わないし、権力欲は強いので、猪突猛進だ。自分自身が「ダメ出し」で鍛えられてきたから、それが部下へのコミュニケーションのデフォルトだと思っている節もある。

▼部下が社長に最も求めるもの「人の話を聞く力」

こうして、ポジよりもネガを拡大視するくせがついてしまうと、なかなかそのマイナス思考から抜け出ることができなくなってしまう。ほめるより、けなす、ケチをつける。こうして「愚痴」や「文句」が口癖の「ダメ出し」「説教」おじさんが量産されていく。

競争心が強く、バリバリと仕事をし、出世していく「オレ様系」おじさんは基本的に、人の話をあまり聞かない。筆者の実施した「コミュ力調査」によると、全国1000人の会社員が「社長に求めるコミュ力」として最も挙げたのは、「話す力」でも「説得する力」でもなく、「人の話を聞く力」であった。

自社の社長のコミュ力の問題点として指摘が最も多かったのは「話が長い」、その次が「対話ではなく一方的に話す」であった。それぐらい、エライおじさんは自分の話をしたがり、人の話に耳を傾けない。他人の言葉に惑わされず、潔い決断を下すことがリーダーシップという「妄信」。それによって、会社を死の淵に追いやり、社員を路頭に迷わせることになった事例は枚挙にいとまがないのだが、「独断的=優れたリーダー」信仰は根強いのだ。