中国のシェアリングサービスは、もはや“シェア”ではない

シェアリングサービスとは、一般的な概念では個人がもともと持っている車や家といった、資産の余剰を市場に開放することで成り立っているものだ。「ちょっとそこまで車で行くから、ついでに乗せていってあげる」「空き部屋があるから、旅行者を泊める」といったように、個人が持っている余剰資産と空き時間を使ってする、お小遣い稼ぎのようなものが多い。

だが中国では事情が異なる。シェアリングサービスを担う「外地人」は、完全に自身のビジネスとして行っているからだ。自転車ではなくバイクを買って、つまり投資して昼食の配達をしたり、よりお金がある人は車に投資をして運転をしたり、はたまたスマホ修理という一種の専門技術を身につけたりする。彼らは配達なら配達、修理なら修理と、それを専門にやっているのが特徴だ。もはや資産の余剰をシェアするというシェアリングビジネスではなく、実際はその名の下に発展した、新しいIT分野ビジネスだと言えるだろう。

会社勤めよりも、“個人”として働きたい中国人

シェアリングサービスを安価に使えることからも、それに携わる人たちがたくさん稼いでいるとは思えない。だがそれでも「外地人」は、個人として働こうとする。誰かに雇われるより自分の裁量で投資をし、ビジネスをやろうとする意識が浸透しているのだ。そもそも中国では個人事業主やフリーランスとして働く人が圧倒的に多く、シェアリングサービスに携わる人はその一部にすぎない。日本だとフリーランスは企業の請負をすることが多いが、中国では、対個人のC2Cのビジネスも一般的だ。「投資をし自分のビジネスを行う」という考え方は、一部の起業家やビジネスマンだけのものではなく、誰もが持っており、中国人が持つ「商人気質(かたぎ)」と言い換えてもいいかもしれない。

日本ではなかなかシェアリングビジネスが普及せず、隣の中国でうまくいっているのを見ると「まねすればいい」と思うかもしれない。また、「日本は規制が厳しいから」という理由で説明されることもある。だが、背景にある文化や社会構造が異なるのが、日本では普及せず中国で発展している大きな理由だ。シェアリングビジネスは中国人の商人気質と、貧富の差が激しい社会にマッチして発展した。それは、大量生産・大量消費時代に日本の終身雇用や集団で努力する文化がマッチして繁栄したことと同じ構図だ。

最後に、こうしたシェアリングサービスがこれまでの時代のサービスと最も異なる点は、サービスにおける取引が全て情報となって蓄積されているということだ。全ての取引が、実名の個人情報とつながったスマホ決済で行われ、位置情報と連携されている。13億人の行動情報が、特定のIT企業に集約されているのだ。これがシェアリングサービスの産み出す最大の富であり、シェアリングサービスが世界に展開されていく日は、私たち日本人が想像するよりずっと早いかもしれない。

菅原伸昭(すがはら・のぶあき)
iROHA 共同代表取締役及びオイラーインターナショナル共同代表。1969年生まれ。91年京都大学卒業、日商岩井入社。96年 中国語学短期留学の後、キーエンス入社、1999年台湾現法設立、2001年 中国現法設立、責任者として中国事業拡大に貢献。その後アメリカ法人責任者を経て帰国後、2014年よりTHK 執行役員 事業戦略責任者。2017年より産業用のAIを開発するベンチャー企業を設立、現在に至る。(連絡先:nobu.sugahara@iroha2017.com)
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