マーケティングの95%は失敗するという。なぜなのか。P&Gは南欧で家庭用洗剤を売り出したとき、消費者調査結果から「他社よりも落ちる」と訴求したが、「香り」を強めた他社製品に手痛く負けた。その理由について当時の担当者は「消費者のニーズは『清潔にする』よりも『清潔に見える』ことにあった」と振り返る――。

※本稿は、ハビエル・サンチェス・ラメラス(著)、岩崎晋也(翻訳)『もうモノは売らない 「恋をさせる」マーケティングが人を動かす』(東洋館出版社)の序章および第2章「マーケティングを最適化するアプローチ」を再編集したものです。

消費を決めるのは理性ではなく感情

企業は、リサーチに大きな予算を割いている。発売前には新製品とブランドの可能性を測るためにプロトコル法を用いた入念な調査をしたはずだ。マーケティングミックスのあらゆる細部を徹底的にチェックし、大規模(かつ予算のかかる)定性テストや定量テストを実施してアイデアを洗練させただろう。それなのに、成功率はわずか5パーセントにすぎない。つまり、95パーセントの場合は何かが間違っているのだ。なんということだろう。これなら子供にでもやらせたほうがいいのではないか?

ハビエル・サンチェス・ラメラス(著)、岩崎晋也(翻訳)『もうモノは売らない 「恋をさせる」マーケティングが人を動かす』(東洋館出版社)

決して言い訳ではなく、これにはいくつかの理由があるのだ。多くの場合、プレリサーチを適切に活用できていない。質問の仕方と回答の読み解き、双方の失敗例を紹介しよう。

しばしばリサーチ・マネージャーは理性に向けた質問をしてしまうものだ。

「あなたはこの製品を競合製品よりも頻繁に購入するでしょうか」
「広告を見たあと、あなたのこの製品に対する評価は改善されましたか」

理性に訴える質問をされると、人は理性によって答えようとする。しかし、消費を決めているのは感情だ。これは、ブランド品を購入する人々が多くいることを考えればわかるだろう。たとえば、正確な時間を刻んでくれる時計が必要なら、20ドルくらい用意しておけば何とかなる。これは理性的な判断だ。でも、私たちは時計に2000ドルを支払うことだってある。100倍ものコストをかけて、自分の成功や趣味のよさをアピールしようとするのだ。こんな出費は、理性的な判断ではありえない。つまりプレリサーチの質問も、感情で反応できるように投げかけなくてはならないのだ。

シェアは上がるに違いないと確信したが……

私がP&G社でマーケティングの世界に足を踏み入れたころのことだ。私は、南ヨーロッパにおいてP&Gの家庭用洗剤の主力商品だったミスター・プロパーのブランド・マネージャーになった。私は「もっときれいになる」というブランドのうたい文句を実現しようとした。製品を改良し、パッケージを変え、改良点が目立つようなグラフィックと広告にする。私は興奮し、シェアは上がるに違いないと確信した。

そのころ、ライバルのアヤックス社もブランドを刷新していた。驚いたことに、彼らは洗剤の品質を落としていた。同時に泡止め剤と香料を増やし、結果的に製造費を下げていた。広告は性能に焦点を当てておらず、女性が楽しげに歌を歌っていた。「掃除がすぐに終わるから、自由な時間が持てます!」とアピールしていた。

当時のマーケティングのテキストでは、これは間違いとされていた。彼らは「きれいにしたい」という消費者の声と違う方向に投資している。これは運がいい。

やがて、販売結果が届いた。なんと、わが社はアヤックス社に市場シェアで2ポイント負けていた。アヤックス社が値下げしたわけでもない、店頭での陳列スペースを確保したわけでもないのに。それから6カ月、手を尽くしたが、差はさらに広がってしまった。一番の問題点は、その理由がわからないことだった。

だが、いまならわかる。私が間違った質問をしていたのだ。