ニューコークの発売には史上最も大規模な調査が行われていた。それなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。調査はなぜ間違ってしまったのか。実は何も間違えてはいないのだ。結果は明確で、安定していた。ブラインドテストでも、商品名を明らかにしたテストでも、ニューコークはコカ・コーラよりもずっと好まれていた。失敗は、こうしたテスト結果の評価にあった。

40パーセントの人々を激怒させるリスク

60対40でAがBよりも好まれるというのは、単にAとBだけの世界で、60パーセントの人がAのほうを、40パーセントの人がBのほうを好むということにすぎない。人々がAだけの世界を望んでいるわけではないし、Bを市場からなくすことで、40パーセントの人々を激怒させるだろう。Bに強い愛着がある場合はならなおさらだ。データの評価を誤れば間違った決定を下してしまうことになる。

写真=iStock.com/BlakeDavidTaylor

強力なマーケティングは常に感情に語りかける。脳は、提示された物語が、本で読んだものなのか、映画で見たものなのか、洗剤のCMで見たものか、どこから来ているかは気にしない。この奇跡的な脳の仕組みが、製品を異なるカテゴリーに昇格させてくれる。製品が合理的な目的を超えて、私たちと感情的なつながりを持つことになるのだ。

こうして人々がブランドに恋し、それらを買い続けると、少しずつ本能的な脳に引き継がれる。いつものスーパーマーケットに行き、競合商品のアピールに目もくれず、オレオのクッキー、バリラのパスタ、ダヴの石鹸をカゴに入れている経験は、誰しもあるだろう。クラシック・コークを欲した例もまさにそうだ。ここまでのプロセスを作り上げることこそが「マーケティング」だ。よいマーケティングは、「製品」の周りに感情をまとわせ、ブランドを作り出すのだ。

マーケティングについて迷ったときは、自分自身にこう質問しよう。「この取り組みは、ブランドへ恋させることになっているか?」「未来の消費者と感情的なつながりを築けるものになっているか?」「それらは、私のブランドに付与したい価値か?」「それらはブランドをより好きになってもらうだけの力を持っているか?」。リサーチの働きについて理解し、正しいテクニックを使って、批判的に見ることを忘れないだけで、マーケティングの質を高めることができるのだ。

ハビエル・サンチェス・ラメラス
トップライン・マーケティング・コンサルティング CEO
IESEビジネス・スクールでMBAを取得後、マドリードでP&Gに入社し、アテネ、ブリュッセルで勤務。1996年にコカ・コーラ社に入社。東ヨーロッパ地区のマーケティングに携わる。2003年、アトランタ本社のマーケティング・ディレクターとして、全世界の「コカ・コーラ」ブランドのマーケティングのトップに立つ。現在、ロンドンに拠点を置くトップライン・マーケティング・コンサルティング(Top Line Marketing Consulting)を創業し、CEOを務めている。
(写真=iStock.com)
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