きれいかどうかの境目は「いい匂いがするかどうか」

私は「あなたは家庭用洗剤にどんなことを期待しますか?」という質問で調査を行っていた。そして、「もっと性能がいいものが欲しいですね」という答えを得て、製品の性能を高めるという決定を下した。この質問は、「商品の側」からの答えを誘導するだけであって、感情的な必要性にせまるものではなかったのだ。

写真=iStock.com/NoDerog

一方アヤックス社は「きれいかどうかの境目は?」「あなたはキッチンの掃除にどれくらい時間をかけますか」「その時間を自分のために使えたら、何をしたいですか?」といった正しい質問をしていた。きれいかどうかの境目は「いい匂いがするかどうか」だった。そして、言うまでもなく、女性たちは掃除の時間を減らし、自分の時間をもっと増やしたいと思っていた。

南ヨーロッパの女性は平均して週6回キッチンを掃除するため、よりよく落ちる洗剤の必要にせまられていなかったのだ。また、南ヨーロッパでは、お客さんを自宅に迎えることが多い。ということは、人々が感情的に求めているのは、仕事ぶりを他の人から認められることだ。つまり、家が「清潔に見える」ということが大事だった。と同時に、やるべきことはやったと自分自身が感じられることも大切なことだ。

感情的な報酬についてのヒントを引き出す

それならば、必要なのは、床をすすぐ回数を減らせる、泡があまり出ないマイルドな洗剤だ。そして、より強く、匂いが持続する香料を開発すれば、消費者の満足感を引き出すことができる。アヤックス社の質問は、感情的な報酬についてのヒントを引き出すことができた。こういった洞察は製品についての質問からは得られないのだ。

さらにアヤックス社は広告を通じて「女性の解放と人生を楽しむ自由を約束する」と発信していた。女性たちはその考えに共感し、もちろんそのブランドのことも好きになった。

そして彼らは勝った。次は回答の読み解きを誤った例だ。

史上最も大規模な調査が行われた「ニューコーク」

1985年4月23日、大規模な定量調査の結果をうけて、コカ・コーラ社はニューコークの発売を決めた。「ペプシ・チャレンジ」キャンペーンへの対抗策だった。ちなみに、ペプシのキャンペーンは合理的なメッセージのために成功したのではない。「負け犬になるな、みんなが好きなほうに乗れ」という、純粋に感情に訴えるメッセージが込められていたからだ。

ニューコークは、調査によればコカ・コーラよりもペプシコーラよりもはるかに好まれていた。社内での長い議論を経て、コカ・コーラの販売をやめニューコークに変換することが決まった。

ところが発売されるやいなや、激怒した消費者から「もとのコークに戻せ」という不満が殺到した。当時のCEOと社長のもとには真っ白な紙が1枚と返信用の封筒が入った封書が送られてきた。そこには"地上で最も愚かなふたりの人間のサイン"を返送してくれと書かれていたという。アメリカのボトラー20社は、決定を覆すよう求めてコカ・コーラ社に対して訴訟を起こした。そして7月10日、コカ・コーラを「クラシック・コーク」として再発売することが発表された。