原則3:相手の感情の流れを読む

最後の原則は「相手の感情の流れを読む」です。自分の思いや感情を伝えるという行為は一見すると能動的な行為ですが、実は受動的行為でもあります。その理由は、伝えるという行為には必ず相手の存在が必要であり、相手が何をどのように欲しているかを知らずに伝えるという行為はできないからです。仮にそれが「できる」という人がいるならば、それは「伝える」の本当の意味、「伝わる」になっていません。

私たちはネガティブを嫌います。ネガティブな状態にいるとその状態を脱しようとします。一方、私たちはポジティブな状態を好みます。ポジティブな状態にいるとその状態を持続させようとします。あなたが相手に何かを伝えようとするとき、相手がネガティブな状態にいればそれを取り除く伝え方を工夫しなければ、相手はあなたからの情報やあなた自身をネガティブな対象として捉え、コミュニケーションを拒否したり、あなたから距離を置こうとしたりしてしまいます。逆に相手がポジティブな状態にいれば、その状態を持続させる伝え方を工夫する必要があります。

最後まで話をきちんと聞いてもらうには

たとえば、私たちは相手の説明が理解不能なときネガティブな状態となります。あなたが巧みな伝えるスキルを使ってプレゼンテーションをしているとしましょう。説明の途中で相手の顔に熟考が浮かびました。同じ調子で説明を続けますか? もちろんダメです。最初はうまくいっていた伝え方でも、相手の状態が変われば、それに合わせて伝え方を変えていく必要があります。相手が熟考しているならば、あなたの説明を理解するのが難しい、疑問がある、といった状態が推測できます。丁寧に説明し直す、具体例を挙げて説明する、相手に疑問点がないか聞く、などの対処をすることで相手のネガティブな状態を取り除く必要があります。相手の熟考を無視して説明を続けたら、相手はあなたの話に聞く気をなくしてしまうでしょう。

ここでは、相手の感情の流れを読む「感情別の伝え方・アプローチ」を大まかに紹介したいと思います。図表1を見てください。

伝え方の核は、「ポジティブな感情の原因を増大させ、ネガティブな感情の原因を取り除く」です。自分がどんなに必要十分な情報を与えたと思っても、相手の顔に興味・関心・驚きが浮かべば、さらに追加して情報を与える必要があります。自分がどんなに素晴らしいアイディアを思いついたとしても、それを聞いている相手の顔に軽蔑が浮かべば、自分のアイディアに不足している点はあるか、謙虚になって聞く必要があります。優越感を抱いている人は優越感を満たしたいのです。

こうした要領で相手の感情の変化に応じて伝え方を変えることが、本当の「伝える」であり、「伝わる」なのです。

清水建二(しみず・けんじ)
空気を読むを科学する研究所 代表取締役
1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。現在、官公庁や企業向けに研修・コンサルティングを行っている。著書に『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
(写真=iStock.com)
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