自分の落ち度は棚上げし「自分は被害者」を貫く人々
金融機関に勤務する40代の女性は、契約書類に不備が見つかった客に電話して、書類の書き直しを依頼する業務に従事しているのだが、怒りだす客が少なくなく、電話をかけるのがいやになるという。
怒りだす理由は、だいたい「おたくの担当者が説明不足だったせいで、こっちは書き直さなければならなくなった。こんな電話をかけられ、おまけに手間も時間もかかって不愉快だ」「書き直していたら、契約が遅れて、こっちが不利益をこうむるじゃないか。おたくの担当者がもっと丁寧に説明してくれたら、こんなことにはならなかったんだから、こっちは被害者だ。面倒くさいから、おたくのほうで書き直して進めてくれ」といった類のことである。
突然、電話がかかってきて、書類の不備を指摘され、書き直すように言われた客の気持ちもわからないではない。だが、もとはといえば、客自身の記入ミス、書き忘れ、印鑑の押し忘れなどであり、担当者の説明不足が原因と考えられる不備はほとんどないそうだ。
このように自分の落ち度は棚に上げて、相手の非をあげつらい、あくまでも自分は被害者だと主張する人が増えている。こういう人は、「自分を怒らせ、不愉快な思いをさせた相手が悪い」という理屈で相手を責めて怒りだすので、実に厄介だ。
▼「落とし前をつけろ」怖いお兄さんのような市井の人
しかも、ときには謝罪や損害賠償を求めることさえある。たとえば、2014年9月、大阪府茨木市のコンビニで発生した土下座強要事件。コンビニに立ち寄ったグループ客が、店員の対応に因縁をつけて怒りだし、謝罪と土下座を求めた事件である。おまけに、「謝りに行くとき手ぶらで行かへんで」などと脅し、タバコ6カートンを巻き上げた。ほかにも類似の事件が報じられている。
これは古典的な手法である。「こんなに被害を受けた」と主張し、「どうしてくれるんだ。落とし前をつけろ」と脅して金品を要求するのは、昔から怖いお兄さんの常套手段だった。
だから、そういうお兄さんが私の勤務する病院にやって来ると、普段よりも緊張した。注射や点滴の際に、手が震える看護師もいたものだ。2012年の暴力団対策法(暴対法)改正後は、以前ほど怖がらずにすむようになったものの、因縁をつけられたらどうしようという恐怖を払拭するのは難しい。
われわれ医療関係者が感じる恐怖こそ、被害者面をして謝罪や損害賠償を求める手法がいかに有効かを物語っているのではないだろうか。