橋下徹氏がジャーナリストの岩上安身氏を名誉棄損で訴えたことに対し、「言論封殺目的で強者が弱者を訴えるSLAPP訴訟ではないか!?」と批判する声が上がっている。橋下氏はこれにどう応えるか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(2月13日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

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名誉棄損を避ける「プロのノウハウ」

僕が岩上安身氏を訴えたことに対して、「SLAPP訴訟だ!」と批判する人がいる。SLAPP訴訟とは、たとえば名誉棄損で訴えられた者が、その訴えは不当訴訟だ、と反論するときに用いる最近流行の概念である。

写真=iStock.com/DNY59

しかし近代国家では、訴えることは自由だ。最後は裁判所で決着を付ける。SLAPP訴訟とういうものは、「表現者の表現を封じる目的で、恫喝的に行う訴訟」とも定義されている。そのように定義するのは自由だが、だからといって訴える権利が制限されるものではない。

表現をする者は、常に訴えられる覚悟で表現をしなければならない。プロのジャーナリストであるなら、訴えられても絶対に負けはしないというプロの仕事としての表現をしなければならない。

事実の指摘なのか、見解・意見の表明なのか。事実の指摘なら、それは真実か。そして、仮に真実でなかった場合に備えて、しっかりと調査・確認をしたか。見解・意見の表明なら人格攻撃・差別表現にあたらないか。「あほ・バカ」というギリギリの表現で攻めるなら、そこは大丈夫か?

表現をする場合には、このチェックが必要不可欠である。

そのチェックをした上で、表現内容が真実でないことが判明し、しかも十分な調査・確認をした自覚がない場合や、人格攻撃・差別表現にあたると感じた場合には、意地にならず、すぐに謝罪をして訂正をする。これが名誉棄損を避けるプロのノウハウである。

訴えられれば、弁護士を雇ったり裁判の準備をしたりと、お金と手間暇がかかる。しかしそれは近代国家が採用した裁判制度につきものの負担である。この負担が嫌だからといって裁判制度をなくしてしまえば、それこそ力の強いものが力任せに相手を屈服させる私的制裁が横行する。裁判制度を採用する以上、訴える方も、訴えられる方も一定の負担を被らなければならない。

もちろん、訴え自体がおかしい不当訴訟というものは存在する。裁判例によれば、およそ法的な権利関係が全く存在しない、すなわち損害賠償請求権が全く成立しないにもかかわらず、損害賠償請求訴訟を起こした場合には、不当訴訟となる。しかし、不当訴訟かどうかは裁判をやってみて最後に判定されることだし、それは超例外的なことなんだよね。