有権者のうち、2人に1人は死票を投じた
選挙結果は自民党284議席、公明党29議席で合わせて与党は313議席。衆議院議席数の3分の2を超えて、憲法改正の発議が可能になった。一方の野党は立憲民主党が55議席で野党第一党に躍進、希望の党は改選前議席を下回る50議席。共産党12議席、日本維新11議席、社民党2議席で、無所属を含め野党全体では152議席にとどまった。
議席数を見れば自民党の大勝である。しかしこれは安倍政権が信任されたというよりも、政権批判の受け皿となるべき野党の分裂、崩壊が招いた結果と見るほうが正しい。今回の総選挙における自民党の得票率は48%。投票率は戦後2番目に低い53.68%だったから、自民党に投票した有権者は大体4人に1人。にもかかわらず61%の議席を占有したことになる。
野党分裂の影響の大きさを示しているのが、落選した候補に投じられた票数、いわゆる「死票」だ。今回、小選挙区では総投票数の48%が死票になった。
私は中曽根康弘首相のときに選挙アドバイザーを務めたことがあるが、最重要課題の1つが死票対策だった。当時は中選挙区制で、たとえば3人区の選挙区に2人の自民党候補が出馬した場合、1人が票を取りすぎて、もう1人が落選するようなケースが多々あった。2位、3位を野党に取られてしまうのだ。死票を減らすために公認と票割りを厳しく行うなどの選挙対策を講じて、さらに投票率を上げるために衆参ダブル選挙を中曽根首相に進言した。結果、苦戦が予想されていた1986年の総選挙で自民党は大勝し300議席を獲得した。
中選挙区制時代に与党自民党を悩ませた死票現象が、小選挙区制の今回は分裂して票を食い合った野党側に出現した。死票が48%ということは、有権者の2人に1人は死票を投じたのだ。
野党共闘が実現していたら、つまり立憲民主党、希望の党、共産党、社民党、日本維新の会、さらに野党系無所属などに割れた票が1つにまとまって統一候補を送り込んでいたら、自民党候補に勝っていた選挙区は少なくない。その意味では「共闘すれば安倍政権を倒せる」と主張してきた小沢一郎氏の見立ては間違ってはいなかった。
個人的には反対だったが、民進党は前回の参院選では共産党、社民党と選挙協力を行ってそれなりの結果(32の選挙区で統一候補11人が当選)を出した。今回の選挙でも希望の党合流を決める前までは共産党との連携も選択肢にあったのだ。もし民進党が野党共闘を実現していたら、あるいは希望の党に丸ごと大合流を果たしていたら、結果は違っていたかもしれない。選挙前の支持率を見ても、国民の心理は少なくとも安倍自民党から離れていた。ところが受け皿になるべき野党が空中分解して、選択肢がなくなってしまった。政権選択どころではなく、最後は人物本位で選ぶしかなくなってしまったわけだ。