安全なことだけをして、襷はわたせない

世界最大の自動車メーカーに成長したといっても、クルマの電動化や自動化の進展についていけなければ、脱落しかねない厳しいレースが待ち受けている。そのレースは経営陣だけで走り切れるものではない。工場や販売店などの現場で働く人たちとの連携がなくてはならない。

撮影=安井孝之

最近、日本メーカーで相次いでいる検査不正や品質保証の不正を起こした一因は、経営と現場の認識が乖離(かいり)していたことがあげられる。経営と現場との間の一体感こそが厳しいレースを完走する条件となる。

友山専務役員は駅伝会場で「年に一回ですが、いろいろな職場の同僚と一緒になって戦い、応援するという一体感は貴重です。一体感があれば、危機の時、すぐにみんなが一斉に対応できると思います」と語った。

昨年の夏、豊田社長は筆者に「襷」という言葉を使って、今、チャレンジする意味を語ったことがある。

「(自動車産業への参入を決めた)トヨタも、とんでもないリスクを先人(豊田喜一郎氏ら)が取ったのです。先人たちはリスクを取っただけで何もいいところを見ずに襷を渡した。それを渡されたわれわれが、リスク、リスクと言って何もせず、安全なことだけをして次に襷を渡したら、将来の人たちに『あの時、停滞したせいで成長が止まっちゃった』と言われてしまう。それよりも『あの時、苦労はあったらしいが、おかげで礎ができたね』と言われたい。継承者というのは絶えず挑戦を続けることだと思います」(カッコ内は筆者)。

社員らが一心不乱に襷を渡す社内駅伝を、トヨタは決して止めるわけにはいかないゆえんである。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(撮影=安井孝之)
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