志村けんさんの有名なギャグ、「アイーン」を例に考えてみましょう。僕らはそれが志村けんさんの代表的なギャグだと知っているから、字面だけでも、あの変な表情を思い出して笑ってしまう。でも、「アイーン」のない世界で、急に誰かが「アイーン」とやったとしても、絶対に「は?」と不思議そうな顔をされるに決まっています。
肝心なのは2度目、3度目です。驚きが去ったあとに何度か見ていくうちに、そのネタ本来のおもしろみが受け取れるようになる。そしていったんツボに入れば、フリを見ただけでも笑いが込み上げてくるようになります。
やり続けることでおもしろがる人が増え、はやりが生まれる。そこまでの辛抱は、日本だろうが海外だろうが一緒です。「なら、海外にさっさと出ていけばええやん」と思うかもしれません。でもそこには、やっぱり言葉の壁があります。
言葉の壁を乗り越えた笑いをつくる
海外の人にウケる日本のお笑い芸人というと、くまだまさしさんが思い浮かびます。番組で海外のゲストが来るときには、必ず呼ばれる芸人さんです。「世界一の経営者」と呼ばれるアメリカの起業家イーロン・マスクはくまださんの大ファンで、来日したときには一緒に深夜番組にも出演しています。
くまださんはブルマーをはいたハゲのおっさん。手づくり感満載の小道具を使った宴会芸が芸風です。驚くたびにヅラが上がったり、片方の鼻の穴で風船をふくらませて、もう片方の穴でリコーダーを吹いたり、思わず吹き出してしまうベタな感じです。
くまださんはおもろいので罪はないですが、ただ海外の人にウケるお笑いというと、やっぱり言葉に頼らないネタになってしまうんだなと思います。
そんなわけで僕は6年ぐらい前から、NSC(よしもとの芸人養成所)で講師をやっています。ほかの先生は週1~2のところを僕は月1回だけですが、そのクラスは英語中心です。1年かけて1本ぐらいは英語でネタができるようになることを目標に教えています。「いずれこのクラスから海外で活躍する芸人が出てくれれば」と願いつつ、ガラにもなく母校の教壇に立っています。