空気を吸うように努力。「神童」のさらに上へ
矢野氏が数多くの在校生、卒業生からの聞き取りを通じて感じたのは、3校とも総じて真面目な人材が多いが、それでも女子学院は自由奔放さが、雙葉はそつなく対人関係を築ける器用さがある一方、桜蔭生は真正の生真面目な生徒が多いということだ。「桜蔭生からは自嘲的に『桜蔭生は東大に行くより結婚するほうが難しい』という話が出ることがあります。教え子の中には子どもを持つことを『種を残す』と表現した子もいて、さすが理系だと感心したこともありました(笑)」。
では実際に卒業生が見る桜蔭はどのような存在なのだろうか。現在、ベビーシッターサービス事業「キッズライン」CEOの経沢香保子氏が評する桜蔭生の特徴は「最大限の努力が標準搭載されている人々」だと力説する。
「とにかく空気を吸うように勉強する人たちです。新学期初日にはすでに教科書をすべて読んで理解しているかのような。勉強はできて当たり前だから、成績がいいことが売りになるわけではない。学校側も成績を一切公表しないし、勉強ができるかどうかで人を判断しません。だから自分がどのレベルにいるのか、卒業するまでわかりませんでした。私自身は浪人して初めて自分の実力を知りました(笑)」
「小学生時代は神童だったのに」と笑う経沢氏は「人生で1番頑張ったのは桜蔭受験かも」と振り返る。
「勉強しすぎてストレスで無意識に眉毛を抜いてしまい、眉が半分しかない小学生でしたが、後にも先にもあんなに頑張ったのはあの時期だけ。小学生であの苦労を乗り越えられたのだから、どんな苦難も乗り越えられるという自信はつきましたね」
また「人生を堅実に生きる」のも桜蔭ならではの共通点だと語る。
「起業家というと冒険心溢れる性格のように思われますが、実はとても手堅い手法を選ぶタイプです。桜蔭の卒業生に医師が多いのも、実は医師という手に職を付ければ、結婚、出産、転勤など関係なく全国どこでも働くことができる。男性を超えるというより女性が生きる道を堅実に選んでいる結果だと思います」
「努力は必ず報われる」「人の2倍努力すれば成せる」。そんな言葉にこそ、実は桜蔭生の1番の力が潜んでいるのかもしれない。一方で、その「真面目さ」「努力」「明晰な思考力」が裏目に出ることもあるという。心理カウンセラーでもあるおおた氏は、もし桜蔭卒が生きづらさを感じる局面があるとすれば、と前置きしてこう語る。
「いまだ日本社会には理想とする女性像があり、そこから外れると『女なのに』と反発が出るのが現実。性差を超越した規格外の能力を持つ女性が現れたとき、彼女たちをどうマネジメントして伸ばしていけるか、これは今後の日本社会の成長力にも関係しているのかもしれません」
1973年、千葉県生まれ。桜蔭高、慶應大卒。トレンダーズ創業者。2012年当時、女性として東証マザーズにて最年少上場社長に。現在はベビーシッター事業「キッズライン」CEO。
おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年、東京都生まれ。上智大卒。リクルートで雑誌編集に携わり、2005年に独立。著書に『女子校という選択』など。
矢野耕平(やの・こうへい)
1973年、東京都生まれ。大手塾に勤めた後、中学受験専門の学習塾「スタジオキャンパス」を設立。著書に『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』など。