日本人は、お上(かみ)が呼び掛けてやる全員参加は得意なのですが、自分たちで呼びかけ、ボトムアップで進める全員参加は得意ではありません。
1964年の大会はまさに、お上が呼び掛けた全員参加でした。2020年の大会も、各国の選手たちの練習場を各地に分散することや、聖火リレーなど、国が主導して国民の参加を促すものはいくつかあります。でも私は、それだけではなく、公募型のものや、「勝手連」的なボトムアップによるたくさんのプロジェクトが、ゆるやかに連携して一つの大会を形作るといった、次世代型の参加方法が必要だと考えています。
ボトムアップで持続性社会のモデルを
具体的にはどんなことをイメージしているのか、少しご説明しましょう。私は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の、「街づくり・持続可能性委員会」の委員長を務めているのですが、2017年7月に委員長メモとして提出した「持続性社会に関する基本提案」の中で、それを描いています。
今度の東京大会は、「人類が希求する社会を、日本はこう考える」ということを、世界に示す機会ととらえるべきです。課題解決先進国として、地球温暖化対策や持続可能な資源活用などにどのように取り組んでいるのかを、象徴的に示せるプロジェクトをいくつも行うのです。
例えば、都市鉱山の活用です。われわれはこれまで、鉄やアルミなどのさまざまな資源を、「自然鉱山」から採掘して加工し、製品化して使った後は廃棄してきました。こうした過去のシステムに決別し、すでに出回っている資源を再利用する循環型社会に移行する必要があります。オリンピックでは、こうした「都市鉱山」にある金属などを活用します。市民が持ち寄った携帯電話やパソコンなどの小型家電の中から金属を抽出し、メダルを作るという「都市鉱山からつくろう みんなのメダルプロジェクト」がすでに動き始めています。
都市鉱山は、競技場建設にも利用できます。競技場のうち、少なくとも1つは、使用済みの鉄、アルミ、セラミック、ガラスや、再利用を前提とした木材を活用して作るといいでしょう。
大会で使うエネルギーは、福島県などの東日本大震災の被災地で作られた、再生可能エネルギーでまかないます。私の試算だと、費用は10億円程度です。決して難しい金額ではありません。特に福島県は、東京電力福島第一原子力発電所の事故で、世界に大きな衝撃を与え、注目されています。オリンピック・パラリンピックで、福島県の再生可能エネルギーを使えば、震災復興の象徴ともなるでしょう。
自然共生についてもアピールすべきです。日本は、前回のオリンピックが行われた1960年代から30~40年間をかけて、空、水、土壌ともにきれいにしてきました。生態系も戻りつつあります。東京のすべての川には、アユが戻ってきています。約1000万人が住む大都市で、清流でアユ釣りができるというのは、世界に誇っていい。さらに、佐渡島にはトキが、豊岡市にはコウノトリが、三島市にはホタルが戻りつつあります。東京湾で天ぷらツアーをやるもよし、多摩川でアユ釣りをするもよし。公害を克服し、自然と共生する社会づくりの入り口に立つ日本を紹介する、格好の事例として世界に示すことができます。