組織の生産性を上げるにはどうすればいいのか。ベイン・アンド・カンパニーのエリック・ガートン氏は「社内の『時間・人材・意欲』の戦略的配分が重要だ」と訴える。ガートン氏の著書『TIME TALENT ENERGY 組織の生産性を最大化するマネジメント』(プレジデント社)では、世界規模の調査により「やる気に満ちた社員の生産性は単に満足している社員の2倍」「17人以上の会議は無意味」といったデータを論証している。このほど来日したガートン氏に日本企業の今後の課題を聞いた――。

希少資源を有効活用するというアイデアは有効

――日本はいま官民をあげて「働き方改革」に取り組んでいますが、労働時間を短縮して単位時間あたりの生産性を上げるというアプローチについてどう思われますか。

エリック・ガートン/ベイン・アンド・カンパニー パートナー

たしかに時短から取り組むのは本末転倒だという見方もあるでしょう。順序としては、労働時間を短縮することに対応して生産性を上げるより、先に生産性を上げてから労働時間を短縮するほうが望ましいのはいうまでもありません。

ただ、希少な時間を有効に使うことを奨励することによって、生産性の向上を促す効果はあると思います。わたしたちはしばしば、使える時間をあれやこれやの仕事で埋めてしまいます。なかには価値を生み出さない仕事もありますし、そういうやり方だとやる気や集中力も落ちてきます。その結果、生産性が下がる。時間制限を設けることによってそういう事態を防ぐことはできるでしょう。

――時短によって個人の生産性は上がるかもしれませんが、組織全体の生産性向上につながるでしょうか?

時間を希少価値として扱うと、人はより賢く時間を使うようになり、新しいアイデアを生み出せるようになるでしょう。

いま大企業ではとくに新しいアイデアが生まれにくくなっています。時間とエネルギーをより創造的な活動に使う方法が必要とされています。同じ量の仕事をより短い時間で終わらせるというだけなら、それはストレスや不安を生むだけです。仕事の量そのものを減らし、より重要な、価値を生み出す仕事に時間を振り向けることが求められています。その過程で仕事の仕方そのものにイノベーションが生まれるでしょう。

われわれの調査では、31%の生産力は価値のない業務やミーティング、いわゆる大企業病のために失われています。企業はそうしたムダを取り除き、価値を生む仕事をするための時間を社員に返さなくてはなりません。ムダな仕事そのものを減らし、価値を生まない仕事から人を解放することではじめて組織の生産力を上げることができるのです。

いかに「やる気に溢れた社員」を増やすか

――好景気と高齢化で日本企業では現在も人材の確保が難しい状況にあります。『TIME TALENT ENERGY』では、新たに人を雇い入れたり、高い研修などにお金を使ったりしなくても生産力は上げられるということを示唆しています。

日本が抱えているような少子高齢化の問題がない国においても、組織において時間、人材、エネルギーという希少資源を有効活用するというアイデアは有効です。価値を生み出していない仕事を排除し、その人がいちばん価値を生み出せる部署に配置し、彼らのやる気を鼓舞する。これができればより少ない人数でより大きなアウトプットを実現できるのです。

より少ない労働人口で国全体を支えていかなくてはならない日本のような経済ではとくに重要な考え方です。人が足りないから生産力が落ちるとは限りません。日本が成長し続けるためには労働人口を増やす必要があるということで、女性や高齢者の活用や移民受け入れなどの議論がされていますが、一人あたりの生産性を伸ばすということも同時に考える必要があります。

わたしたちの調査では、やる気に溢れた社員は単に満足感を覚えている社員の2倍以上生産性が高いという結果が出ています。社員の数は変わらなくても「やる気に溢れた社員」の数が増えるだけで生産力が増強されます。彼らに適材適所で力を発揮してもらうと同時に、無駄な会議や階層といった大企業病をなくせば、さらに生産性は上がるでしょう。人材については、労働力が足りるか足りないかという次元の話だけなく、もっとクリエイティブな議論をしていくべきです。