伝統と新しさを融合し、「広めるより深めたい」

伝統のコーヒーも進化させた。千尋氏の夫である水野貴之氏(同社専務)が中心となり、当時は名古屋地区で初となる「スチームパンク」という抽出機を導入。ネル(布)ドリップと並行してコーヒーを淹れている。

(上)本店にある「スチームパンク」の抽出機。(下)新聞や雑誌は読み放題だ。

「新しいことは取り入れますが、“名古屋の喫茶店の娘”という原点は大切にしています。昔からの飲食メニューもある一方、新しいフードも投入します。その塩梅がむずかしいのですが、『どこか懐かしい』『ホッとする』という店であり続け、店舗数を一気に拡大するのではなく、店の本質を深めたい」(千尋氏)

本店のカフェ入口手前には、名古屋の喫茶店らしく読み放題の新聞や雑誌も置く。他のスポーツ新聞は1紙でも、中日スポーツだけは2紙あるのも名古屋流だ。現在、本店ではフランス北西部の郷土料理・ガレットなどが楽しめる朝食メニューも提供する。こちらも無料の「モーニングサービス」ではない。

全国チェーンであるスターバックスやドトール、コメダ珈琲店は確かに強いが、国内にはこの店のように、局地戦では大手よりも集客する“地元最強の店”がある。どのように店の特色を伸ばし、お客の心をつかむか。やり方はひとつではないのだ。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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