ここまでメジャーリーグの乱闘の背景を見てきた。では日本のプロ野球はどうなっているのだろうか。

日本にも、メジャーリーグのようなアンリトゥン・ルールは存在する。かつてオリックス-阪神戦で新人だった阪神の藤川俊介選手(現・俊介)が5点リードの状況で盗塁したとき、オリックスバファローズの岡田彰布監督(当時)は「これは大変なことやと思うよ。明日も試合あんのになあ」とコメントした。これはアンリトゥン・ルールを破った者への報復を示唆する発言である。ただ実際には、翌日の試合で死球の応酬や乱闘騒ぎは起こらなかった。

そして乱闘の際は全員が参加しないといけないという暗黙の了解は、実は日本のプロ野球にも存在している。ヤクルト・巨人・阪神で4番を打った広澤克実氏は、かつてテレビ番組で「乱闘に参加しない選手から罰金を取るチームもある」と明かしていた(テレビ朝日系『中居正広のスポーツ! 号外スクープ狙います!』15年11月3日放送)。乱闘が発生した際によく見ていると、選手やコーチ含めて一人残らずグラウンドに出てきているのがわかる。

日本人の気質に乱闘は合わない?

しかしここでもメジャーリーグと違い、真剣にグーで殴り合ったり、直接関係ない選手同士が乱闘したりといったことはほとんど起こらない。野球評論家の豊田泰光氏は「日本人は争いを好まぬ穏やかな気質なので、乱闘になったときベンチに残っていてはいけないという不文律も変わっていくのではないか」と分析していた(日本経済新聞04年1月15日「野球評論家豊田泰光氏――変わる不文律と契約書(チェンジアップ)」)。

日本でもメジャーリーグと同じようなアンリトゥン・ルールは存在するが、適用は厳格ではない。そのために、メジャーほど派手な乱闘や死球合戦が起きたりしないというわけだ。

NHKがメジャーリーグ中継を本格的に始めたのが1987年のこと。今年は30年目にあたる。当時は日本国内に入ってくる情報も少なく、ごく限られた層しかメジャーリーグに関心を持つ人はいなかった。その後1995年の野茂英雄投手、そして2001年のイチロー選手の渡米が大きく流れを変え、今では「日本のプロ野球は見ないが、メジャーリーグは好き」という野球ファンまで存在するようになった。来季からは日本ハム・大谷翔平選手のメジャー挑戦が確定し、ますます注目度は高まっている。メジャーリーグ中継を観る際には、メジャーリーグならではの乱闘の作法にも関心を持ってみると、よりアメリカの野球が楽しめるはずだ。

新井悠真(あらい・ゆうま)
ライター兼映画プロデューサー。元全国紙記者。世界中の映画を年500本観る映画好きかつ、メジャーリーグを全試合チェックする野球好き。
(写真=USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
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