逮捕というのは他人の身体を拘束するという、人権を制約する行為だから、一般人が他人を逮捕できるのは、犯人を取り違える可能性が低い現行犯に限られるというのは自然なことだ。しかし逆に、現行犯なら、逮捕権という重大な権限を一般人でも行使できることになる。
では、現行犯なら、どんな犯人でも一般人が逮捕することはできるのだろうか。例えば、赤信号を渡る歩行者など、軽微な罪を犯した人を一般人が逮捕することはできるのだろうか。
結論からいえば、法律上は「犯人が逃げようとした場合は可能」である。軽微な罪については、犯人の住居や氏名が明らかでない場合か、逃亡するおそれがある場合に限って現行犯逮捕が認められている(同法第217条)。つまり歩行者の信号無視(2万円以下の罰金又は科料)の場合、免許証などで身分を明らかにして大人しくしていれば逮捕できないが、逃げようとした場合には、逮捕できるということになる。しかし、現実の運用はどうかというと、
「おそらく赤信号無視程度では警察に受けつけてもらえない。そもそも、年齢・境遇・犯罪の重さ・態様等を考慮して、逮捕の必要性(同法199条2項但書)がない場合は、逮捕は認められない。一般人による現行犯逮捕はなかったことにして、せいぜい口頭の注意で終わる可能性が高い」(長谷川弁護士)
忙しい警察官は軽い犯罪に手が回らない。一般人による現行犯逮捕が法律上可能でも、軽微な犯罪については形骸化しているといっていいだろう。
(ライヴ・アート=図版作成)