生活費がないときは、消費者金融にも世話になった。近年、消費者金融の利息返還訴訟が取り沙汰されているのは、とんでもない話だと思ってる。だってさ、「この金額を、この金利で貸しますよ」「はい」と約束して借りておきながら、あとから「利息が高い」と言い出したら、世の中の仕組みが壊れてしまうよ。借りるときは借りられるだけでありがたいと思っているのに、あとから約束を反故にするやり方はいただけない。
俺は、『あかね空』が売れて金が入ってきたら、まず消費者金融に全額返しました。そうしたら本当に喜んでくれて、「困ったときはまたどうぞ」と言ってくれたし、それが縁で日本消費者金融協会の会報誌にエッセイを書くことになったんだ。これも、利子から逃げずに食いにいった結果だろうね。
実は困窮していた武家の生活
昔から「金に汚い」「お金に執着しない」という言い方があるように、日本人はお金に対して妙に気取ってしまう部分があります。特に武家社会においては、金のことを話すのは卑しいという風潮があった。ところが、それこそがとんでもない誤りなんだ。
江戸時代で一番お金に苦労していたのは武家です。何も仕事をせず、徳川家からいただく禄を食んで使うだけなので楽な身分のように見えても、そうではなかった。百俵取りの御家人は嫡男が自動的に跡を継いで、よっぽどの失策をしない限りクビにはならないけれど、俸給というものには昇給がない。ところが、諸色(物価)はどんどん上がっていくから、生活はどんどん苦しくなっていく。しかも彼らには外出時には供を引き連れるという作法があるので、奉公人を雇わなくてはいけない。だから、御家人の生活は本当に困窮していたんです。
当時の徳川幕府を現在の株式会社だとしたら、直属社員の旗本や御家人に「一生雇うけど一生給料は上がらないよ」と言っていたわけですから、どこかで生活は破綻しますよ。今の経営者は、自分が渡す給料で社員がちゃんと暮らしていけるかをまず考えるのに、徳川幕府は社員である武家に対してなんの経済政策もしなかった。これこそが、武家社会崩壊の1つの要因といえます。