ほかの人と同じことをやっていてはダメだ

石井は社長在任18年、会長在任6年の「業界の顔」というべき大物経営者で、一言で言うならカリスマです。海軍兵学校の出身で、私より二まわりも年上。東京時代はほとんど会話をした記憶もありませんが、この頃はたまに大阪へ出張に来て、今思えば私に経営の手ほどきをしてくれたのです。たとえば、こんな言葉が記憶に残っています。

「営業をするときは、ほかの人と同じことをやっていては仕事に結びつかない。大事なのは、当社や自分に興味を持ってもらうことだ。それには相手に強い印象を植え付けなければならない。これができるかどうかで、結果は大きく変わるものだ」

たしかにその通りだと思いました。受注活動では、競合他社と同じ動きをするのではなく、先手を取って、しかも他社を上回る提案をすること。そしてお酒の入った会合の場では、相手の真情を汲み取り、仕事の話を持ち出すべきか、懇親に徹するべきかの判断も重要になります。どちらの場面でも、相手の記憶に残るよう、メリハリをつけて対応することが大事だと教えられました。

そこにはマナーの教本はありません。付け焼き刃のマナーではなく、もっと深いところから自然に出てくる振る舞いが、結局は相手に伝わります。

古くから交流のある経営者が私を評価してくださるので、「なぜ気に入ってくれたのですか?」とうかがったことがあります。その答えは、何かの行事の後片付けの際、私が椅子を運んでいる姿に感銘を受けたというのです。会社での立場とは一切関係なく、私は手があいていたから何も考えずに手伝っただけです。しかし、そういう些細な行為をしっかりと見ている人がいて、評価してくれることがあるのです。

マナーは誠意から生まれるものだ。私は常にそう思っています。

大内会長の作法
1 年賀状はどうしているか(枚数など)
出している。ビジネス1000枚以上。
2 普段のお礼状はどうしているか
出している。
3 仕事絡みのゴルフはするか
する。プライベートより仕事上のほうが多い。
4 日常の勤務時、ネクタイはするか
する。
5 会食の回数
週3回(ビジネス)。
6 服は誰が選ぶか
自分。
7 初対面の相手で見るところ
顔。表情によって、その人の歴史観を読み取る。
大内 厚(おおうち・あつし)
1949年生まれ。水戸一高、東北大学工学部卒。同大学院修士課程を修了後の75年入社。東京本店技術1部長などを経て2005年大阪支店副支店長。08年取締役常務執行役員大阪支店長。10年から社長。16年から会長を兼務。
 
(構成=石川拓治 撮影=的野弘路)
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