国内法の正当防衛に集団的正当防衛がないのだから、本来は集団的自衛権は存在するべきではなかった、という一方的な推論で、国際法が否定される。異物を抱えているのが国際法で、純粋で美しいのが日本国憲法だ、といったガラパゴスなロマン主義が蔓延することになる。
最初から的外れの憲法解釈
憲法学者の問題性は、国際法の論理を理解しないということだけにとどまらない。初めの一歩のところから的外れである。国家は自然人と同様に意思する有機的実体、などではない。ほんらい日本国憲法が依拠している考え方では、国家とは一つの制度に過ぎない。国家の存在目的は、国家という制度を構成して運営している自然人たる人間である。
国際法ではどうだろうか。国家の基本権のようなものを認める国際法は、古い19世紀的な国際法である。現代国際法では、人権法や人道法も発達し、国家は自然人を守る制度として認識されている。
集団的自衛権が違憲となるのは、日本の「憲法学」の世界観である。現代国際法の世界観ではなく、国際協調主義を謳う日本国憲法典の世界観でもない。ほんとうの憲法は、国際社会の法秩序と協調して平和を達成していくことを宣言している。
(*1)日本の憲法学の代表的教科書である岩波書店『憲法』の著者、故・芦部信喜東京大学法学部第一憲法学講座担当教授(1923-1999)の憲法解釈。
(*2)第十九回国会 衆議院外務委員会議事録第57号(昭和29年6月3日)
(*3) 国際連合憲章第51条「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない」
(*4)「座談会 憲法インタビュー―安全保障法制の問題点を聞く―:第2石川健治先生に聞く」、『第一東京弁護士会会報』、2015年11月1日、No.512、5頁。
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。